「ただいま・・・・・」
俺が家のドアを開けて中に入ると
「おかえりー!まってたよー!」
ハピマテが走ってきた。
「どうしたんだ?そんな嬉しそうにして・・・・・」
俺が聞くと、台所から母親が出てきた。
「それがね、きいてよ。今日商店街で福引きをしたらね、なんと・・・・・」
そう言って、取り出したのは、何かのチケットだった。
それをよく見て、俺は驚いた。
「よ、横浜2泊3日宿泊券!?」
「そうなのよ!特等が当たっちゃって。旅行に行けるのよ!」
「へ、へぇ・・・・・。すげ・・・・・」
俺は言ってから思った。
「2泊3日っていついくの?3連休なんて今月あったっけか・・・・・」
「あるじゃない!次の土日月と。月曜日は開講記念日でしょ?ちょうどよかった!」
俺は頷いて
「あぁ、そうか。っていっても父さんは今仕事忙しいんだろ?」
「だからね。3人の宿泊券だから――」
「ま、まさか・・・・・」
俺は生唾を飲み込んだ。
「そう。私も一緒に行かせてもらうことになったんだよー!」
ハピマテがにこにこしながら言った。
「ほ、本気?別に身内でもない女の子と一緒に旅行なんて・・・・・」
「そんな身内もなにも一緒に暮らしてるじゃない。もう決まったことなの!わかった?」
俺は少し迷ってから
「わ、わかった・・・・・」
と言って頷いた。
そこで思い出した。日曜日に彼女と遊ぶ約束してたんだった・・・・・
「あ、あの今度の日曜日は――」
そこまで言って俺は思った。
ここでどんな予定が入っていても母親は絶対に旅行に行くだろう、と。
「なに?」
「いや、なんでもない・・・・・」
そう言うと、俺は自分の部屋へと入っていった。

部屋に入り、俺はパソコンを起動させ、携帯を手に取った。
彼女にメールを送る。


ごめん。今度の日曜日、遊びにいけなくなっちゃった。ホントにごめん。
また今度、いつか行こう。


返信はすぐに返ってきた。


うん。分かった。用事があるんならしょうがないよね。また今度遊ぼうね。


俺は、その返事を見て、安心すると、パソコンでVIPにつなぎ、いつもの通り良スレを探し始めた。

帰宅して、一時間ほどたっただろうか。
ふいに携帯の着信音がなった。
液晶を見ると、そこには、あいつの名前が書いてあった。
「なんだろう・・・・・」
メールを開くと、そこにはこう書いてあった。


お前に言っておきたいことがあるんだ。こんなこと話して良いのかわかんないけど。
他の誰にも言わないって約束してくれ。
俺、クラスの委員長と付き合うことになった。お前と委員長、仲良くしたりしてたから・・・・・
それに、お前と俺は友達のつもりでいるから教えておく。


俺はそのメールを見て、あらためて思い、苦笑した。
――やっぱりあいつはあいつだな。酷いくらい非秘密主義だ。それがあいつの良い所なのか悪い所なのか・・・・・
俺は、あいつに


そうなのか。よかったじゃん。


とだけ書くとメールを返信した。

「よーし!じゃあ横浜へレッツゴー!」
土曜日。駅のホームでハピマテが明るく言った。
「おい、頼むから大声出すなよ・・・・・」
「あら、いいじゃない。盛り上がって」
ホームに立っているのは沢山の人、人、人・・・・・
その中に、俺と母親、ハピマテが立っている。
新幹線がホームに到着し、乗り始める。
指定席だったためすんなり座れた。
「お菓子食べようー」
「んー」
耳にイヤホンをさしこみ、ハッピーマテリアルを聞き始める俺。
「どのくらいでつくのかな?」
「まぁ、2時間とかそこらじゃないかしら」
そんな会話をしている内にあっという間に次の駅に着いてしまった。
「横浜だー!」
と言いながら新幹線から降りるハピマテ
周りの人がこちらを見てくすくす笑っている。
「まてまて、まだ東京だって。ここから乗り換え」
「なーんだ」
そう言いながらまた電車に乗ろうとする俺達。
「あ、まってまって!」
ハピマテが俺を呼び止めた。母親はさっさと先へ行ってしまう。
「これみて!これ!」
そう言うハピマテアニメイトのポスターを指さした。
そのポスターには、来月発売の主な物のリストがあった。
そして、そこに

ハッピー☆マテリアル麻帆良学園中等部2-A)

の文字。
「そういえばもうすぐ発売だな・・・・・。あと10日ちょっとくらいか」
「今度は・・・・・」
そこまでハピマテが言ったが、その言葉を俺が制した。
「分かってる。今度こそ1位だ。絶対に」
そう言うと、俺は
「よし、じゃあ行こうか。電車に遅れる」
「はーい!」
そう言うと、俺達は母親を追って走り出した。

「今度こそ横浜だー!」
「そうだよ。今度こそ横浜だ。」
にこにこしながら電車から降りたハピマテと俺達。
「それじゃあまずはホテルにいってチェックインすませるわよ」
「はぁい!」
ここ、横浜には、水上タクシーなるものがあるらしい。
海の上を船が定期的に走っていて、いろいろな場所に連れて行ってくれるらしい。
「わー、すごーい。海だ海だー!」
はしゃいでいるハピマテを見て苦笑する俺。
「そういえばハピマテは海見たことなかったんだっけか」
「そうだよ。初めてみたー」
そんな話をしていると、母親が
「ほら、ついたわよ」
と言い、俺達は船をおりた。

「ここが私達の部屋かー。わー!窓から海が見える!ほら!あれ私達が乗ってきた奴!」
ホテルの部屋に入り、はしゃぐハピマテ
「じゃ、俺、この端のベッド。」
「じゃあ私はこの真ん中―!」
ベッド取りが終わり、俺達は各自のベッドに寝っ転がった。
「移動だけでこんなに疲れちまった・・・・・。横浜って都会だな・・・・・」
「そうだねー・・・・・」
「そうね・・・・・」
そうやっているうちに意識が遠くなって・・・・・

・・・・・ハッ!
起きあがって周りを見渡す。
近くの机にはメモが一枚置いてあった。

昨日あんまり寝てなかったみたいだったからゆっくりねててネ
お母さんとその辺を見にいってきまーす♪
                                ハピマテ

「あぁ、どっか行っちゃったのか・・・・・」
時間は四時。まだ眠れるな・・・・・
そう思うと、俺は、もう一眠りを始めた。

「あーん、まだ寝てたの?そろそろおきなよー」
ハピマテの声で目を覚ますと夜の7時だった。
「うわ、結構寝ちゃったな・・・・・」
そう言って、起きあがる俺。
「しょうがないよ。昨日ずっと起きて勉強してたみたいだったし」
「う、うん・・・・・」
頭をぽりぽりかきながらインスタントコーヒーを入れ始める。
「でも楽しかったね。いろいろ見て回ったりして」
ハピマテがそう言ったので、俺はコーヒーをこぼしそうになった。
「いろいろ見てまわったりして・・・・・ってそこらへん散歩してたんじゃなかったの?」
するとハピマテはにっこり笑って
「うん、いろいろ観光したんだー」
と言った。
俺は愕然とした。
「お、俺が寝てる時に二人で観光した・・・・・?」
「うん」
俺はコーヒーカップを置いて怒鳴った。
「ならなんで起こしてくれなかったんだよ?これ旅行じゃないのか?」
「だって、寝てたじゃない。起こしちゃ悪いと思って」
「そ、そうよ。そんなに怒らないで。もともと今日見る所は予定済みだったんだし・・・・・」
その言葉を聞いて、俺はさらに驚いた。
「予定済み?そんな予定が組まれてることなんて聞いてないぞ?」
「だってあなたは部屋に閉じこもって勉強してたじゃない」
机をバンと叩く俺。
「旅行ってのは行く人が全員予定を知ってる必要があるんじゃないの?俺だって予定知ってれば寝たりしなかったってーの!」
「そんなに怒らないでも・・・・・」
母親が言うが、俺は気にせず続ける。
「俺はこの旅行を楽しみにしてたんだよ!それなに一日目が寝てつぶれるなんて・・・・・」
「そんな、私、昨日あんまり寝てなかったみたいだから気を遣ったつもりだったのに・・・・・」
ハピマテが言った。
「もうしらねーよ。勝手に何処にでも行ってろ!」
そう言うと、俺はまたベッドに横になろうとした。
「ほら、ご飯だから一階のレストランにいきましょ」
母親が言った。
俺はしぶしぶ二人についていった。

食事の間も無言の時間が続いた。
俺は怒ったのが無理なことだったということも分かってる。
なにも全部ハピマテ達が悪いわけじゃない。
旅行中に寝てしまった俺にも非がある・
それを分かっていても、今更謝る気にもなれなかった。
「ごめん」と一言言うだけで良いのに、それが言えないまま、食事が終わった。
そのまま部屋に戻り、何も言わずに過ごした。
お互い話をできる雰囲気ではなかった。
母親から
「仲直りしなさいよ」
と言われたが
「うん・・・・・・」
とだけ言って結局何もしなかった。できなかった。
夜は俺の住んでいる地域では見れない深夜にやっているアニメを見たりして時間をつぶしたが、空気は重いままだった。
ハピマテはそっぽを向いてベッドに横になっている。
「ふぅ・・・・・」
ため息をついて、俺もそのままベッドに横になった。
昼間寝たせいでなかなか寝付けない。
かと言ってすることもない。
――こんな旅行当たらなきゃよかったのに
そう思っている内に、ふと彼女のことを思いだした。
――そういえば彼女と遊ぶ約束してたんだったっけ・・・・・
そう思って、携帯を見ると、「新着メッセージ1件」の文字
見てみると、メール送信者の欄に、かいてあった名前。
それは、彼女のものだった。

メールを開けてみると、そこにはこうかいてあった。


朝早くごめん。
今日はどこに行ってたの?家にちょっと話したいことあって夜に家に行ってみたら留守だったから・・・・・
泊まりがけでどこかに出かけたのかな?


時計を見てみると、もう7時だった。
――結局知らない間に寝てたんだ。まぁ、3時間くらいしか寝てないだろうけど
そう思いながらメールを返信する。


実は家族で横浜に旅行に来てるだよね
遊ぶ約束してたのに、突然入った計画だったから…
ごめん。おみやげ買っていくよ


メールを送信したところで急に眠気がおそってきた。
が、昨日のようなことになりたくなかったので、すぐに起きて顔を洗ってさっぱりする。
そこで母親が目を覚ました。
「あら、どうしたの?早いわね」
「うん、目さめちゃって・・・・・」
そう言いながらコーヒーを淹れる俺。
「今日、すぐそこの遊園地に行って来なさい。あの子と二人で」
「えっ?ふ、二人で?」
俺は驚いた。
『すぐそこの遊園地』というのはコスモワールドのことだろう。
でも、なんでハピマテと二人で・・・・・?
「あなたたち昨日喧嘩してたでしょ?遊園地にいって一日過ごせば仲直りするわよ」
「え、でも今日の予定は・・・・・」
俺が訪ねると母親は笑っていった。
「今日の予定はあの遊園地に行くことになってたから。私はいない方がなにかといいでしょ?」
ふふ、と笑うと母親は
「ほら、朝ご飯は8時からだからそれまでテレビでも見て休みなさい」
と言った。

8時になり、朝ご飯を食べている時に、母親が俺に言ったことと同じことをハピマテにも言った。
ハピマテ
「えっ?」
一瞬驚いたが、すぐにこくっと頷いて
「分かった。」
と言った。

「それじゃ、いってらっしゃい」
母親に送られ、俺とハピマテはコスモワールドへ向かった。
コスモワールドに行く途中、俺とハピマテは無言だった。
無言のまま歩いていた。
コスモワールドにつき、ソフトクリームを買って食べている時、俺は意を決して、口を開いた。
「昨日はごめん。俺にも悪い所はあったのに、あんなこと言っちゃって・・・・・」
すると、ハピマテはにっこりと笑って。
「ううん、こっちこそごめんなさい。これからは勝手なことしないよ。約束する」
そう言って、ソフトクリームをペロペロと舐める。
俺はほっとした。
ここで無視されたらどうしよう、と思っていたからだ。
「そうか、よかった。じゃあ、いろいろ見て回ろうか」
そう言って、アトラクションのチケットを購入する。
「どれに乗る?」
「じゃあねぇ、これ!」
そう言って、ハピマテが指さしたのは、ジェットコースターだった。
「いいの?怖いんだよ?」
「うん!いいよ」
そう言って、ハピマテは購入ボタンを押した。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
そう言って、俺とハピマテは笑顔で歩き始めた。

「きゃーっ!」
「わーっ!」
物凄いスピードでジェットコースターが地面に向かって落ちていく。
そして、地面にあいた穴に入っていく。地下のトンネルを通り、また地上に出てくる。
これが一瞬にして起こるからジェットコースターは怖くて面白い。
「ふぅ、怖かったー・・・・・」
ジェットコースターから降りると、ハピマテはため息をついて言った。
――流石のハピマテもジェットコースターには懲りたかな?
俺は、そう思った。
が、ハピマテ
「じゃあ今度はアレに乗ろう!」
と言って、指さした。
ハピマテの指の先には、また別のジェットコースター・・・・・
「いいの?あれ、今のみたいに怖いんだよ?」
俺がそう言うとハピマテはにっこりと笑って
「うん!だって今の怖かったけど面白かったもん!」
と言った。
「ははは」
と俺は苦笑すると
「じゃあアレに乗ろうか」
と言って、そのアトラクションのチケットを買った。

その後も、お化け屋敷、ミラーハウスと行った俺とハピマテ
「やっぱり、次乗るといったらアレかな」
そう言って指さしたのは世界最大の時計付き観覧車。
「おっきいよねぇ・・・・・」
ハピマテはそう言った。
「じゃあ、乗ろうか」
そう言って、チケットを買う俺。
観覧車に乗る前に写真撮影をする。
「乗車後にはできあがっているので、よろしければご購入ください」
係員にそう言われ、観覧車に乗り込む俺とハピマテ
だんだん上へ上へとのぼっていく観覧車。
「この観覧車、『コスモクロック21』は、全高112.5メートル、店員480名の巨大観覧車で横浜のシンボルとして・・・・・」
観覧車の中ではアナウンスが流れている。
――そういえば彼女と遊園地に行った時も観覧車に乗ったな・・・・・
そう思い出した俺。
そうして考えると、彼女との遊ぶ約束を破ったことに罪悪感を感じてきた。
――そういえば昨日のメールで『話したい事』ってなんだろう・・・・・
そう思っていると
「高いねぇ」
ハピマテが話しかけてくる。
「あ、あぁ。うん」
俺はそう答える。
会話が続かない。いつもなら話題なんて自然とでてきて会話が弾むのに・・・・・
この密閉された空間に二人だけ、という感じがいつもと違う空気を作っているような気がする。
そのまま、アナウンスだけが流れる中、観覧車はどんどん動いていく。
「それでは、地上です。長い間ありがとうございました。またのご来場をお待ちしております」
アナウンスがそう言ったと思うと、観覧車は地上に着いた。
「ついたー」
そう言って、観覧車から降りるハピマテ
「はい、ありがとうございました。写真もそこの売店で売っていますのでよろしければご購入ください」
係員にそう言われる。
「写真、どうしようか」
「見てから決めようよ」
売店に行くと、沢山写真が並んでいた。
「えーっと・・・・・あった!」
俺とハピマテが2人で写っている写真。
「どうしよう、買おうか?」
「そうだね、買おう買おう!」
「じゃあ1枚ください」
写真を受け取ると、俺とハピマテはホテルに戻るために歩き始めた。
気がつくともう夕方になっている。
「今日は楽しかったねー」
「うん、楽しかった。」
並んで歩く俺とハピマテ
周りにはカップルばかり歩いてイチャイチャしている。
「二人でツーショットの写真も撮ったし、こうやって歩いてるとさ――」
ハピマテが俺の顔をじっと見て、そこで言葉を止めた。
「え?」
俺が不思議そうな顔をすると、ハピマテはにこっと笑って
「私達、カップルみたいだね」
と言うと、俺の手を握ってきた。
俺は驚いたが、すぐに手を握り返した。
その時、ハピマテの顔が赤かったのは夕焼けのせいだったのかもしれない――



       (第二十八話から第三十二話まで掲載)