金曜日。
俺は朝からそわそわしていた。
その理由は、彼女とのことにあった。
一応、付き合っているわけだからやっぱり、デートに誘わなくちゃいけないんだろうか・・・・・
昨日の夜はずっとそれを考えていた。
――でもいきなりそんなこと言ったら流石にひかれるかな・・・・・
そういう考えも生まれてくる。
だが、俺は、決めた。
――よし、今日、「日曜に遊園地にいかない?」って言おう。
初めてできたカノジョだったし、どうしていいのか、俺も分からなかった。

学校につき、友人と話していてもすぐ、彼女のことが頭に浮かんだ。
――やっぱりメールで・・・・・
という考えも浮かんだが、それだとあんまりな気がする。
ここは直接伝えるべきだ。
そうしているう
ちに、放課後になった。
いつものように、彼女を屋上に呼び出す。
「どうしたの?」
彼女が来た。
俺は、息を大きく吸って言った。
「あ、あの、次の日曜日、一緒に遊園地にでもいかない?ほら、すぐそこにある・・・・・」
すると、彼女は少し驚いたが、すぐににっこりと笑って言った。
「う、うん――。いいよ――」
俺もすぐ笑って
「じゃあ、日曜日に駅前で12時でいい?」
「いいよ」
「そ、それじゃあ日曜日」
と言うと、俺は走ってその場を走り去っていった。
そんなことを言った自分がなんだか恥ずかしくなった。

――そして日曜日。
俺は11時45分に駅前に行くと、すでに彼女が待っていた。
「ごめん、待たせちゃって・・・・・」
「私も今きたところだから――」
お互いに挨拶を交わすと、遊園地へと向かった。

俺達が行く予定だった遊園地は県内でも大きな遊園地だ。
ときおり歌手がコンサートを開いたりもする。
「こんでるなー・・・・・」
「あ、あれ――」
彼女が指さした先には、ポルノグラフィティのコンサートのお知らせの看板があった。
「今日はライブあるのか。混んでるわけだ・・・・・」
「うん」
「ごめん、日程悪かったかな・・・・・」
「別にいいよ。混んでても気にしないし――」
話ながら、チケットを買い、中へ入る俺達。
「じゃあ、何処行こうか・・・・・」
遊園地内の案内を見ながら腕を組む俺。
「やっぱり、ジェットコースターとか?」
「うん――」
彼女は、頷くと
「じゃあ行こうか」
と言った。
思った通り、ジェットコースターは長蛇の列だったが、なんとか乗ることができた。
俺達が座ったのは一番前。
彼女の方を見ると、かなり緊張しているようだった。
「もしかしてジェットコースター苦手?」
「に、苦手ではないけど――」
そういう彼女の横顔はやはり可愛い。
「それでは出発しまーす」
係員の言葉でガタン、と音がすると、ジェットコースターが出発した。

「ふぅ・・・・・」
ジェットコースターを降りた俺達はため息をついた。
意外と怖かった。ジェットコースターは苦手じゃない俺でもだ。
足をふるわせながら立っている彼女を見た様子だと、やはりジェットコースターは苦手のようだ。
「じゃ、じゃあそろそろポルノのコンサート始まるみたいだし行ってみようか」
「た、立ち見なら見れるかもね――」
そう言いながらコンサート会場の広場へ向かう俺達。
と、広場で彼女がだれかにぶつかる。
「あ、ごめんなさい・・・・・」
「いえ・・・・・」
そう言って振り向いたその人は――

俺達の目の前に立っていたのは、あの娘だった。
「あ、いや、あの――」
口を濁す俺。
当然だろう。フラれたと思った男が他の女と歩いていたら、誰でも驚く。
「あ、あの、どうしてここに?」
彼女が訊くとしばらくぽかーんとしていたあの娘は、ハッとして、口を開いた。
「い、いや、私、ポルノのファンだから、ライブ見に行こうと思って――」
「そ、そう――」
3人の間に気まずい空気が流れる。
俺は、なにも言えない。何をいっていいのか、わからない。
「え、えと――」
彼女が何かを言おうと口を開くが、その前にあの娘は
「そ、そうだ。ライブ始まっちゃう!あなた達もライブ見に来たの?」
と態度を変えて言った。
が、それは誰が見ても明らかだった。『演技をしている』と。
「じゃ、じゃあ始まるから私見に行かないと。席取られちゃう。じゃあね!」
そう言い残すとあの娘は、広場の席へと走っていった。
「・・・・・別の乗り物に乗ろうか」
「そ、そうだね――」
俺と彼女はそう言うと、その広場をそっと離れた。

他の乗り物は、ライブが始まったこともあってか、割と空いていた。
「何に行こうか・・・・・」
「うーん・・・・・」
二人で園内の地図を見ながら言う。
「それじゃあ・・・・・お化け屋敷とかは?」
「お化け屋敷――?」
彼女は、少しうつむいてしまう。
「ご、ごめん。じゃあどれか他のに――」
「お、お化け屋敷でいいよ――」
彼女はそう言うと、
「じゃあお化け屋敷いこうか」
と言って、お化け屋敷のある所に歩いていく。あわてて後を追う、俺。
「ホントにいいの?別に他のでも――」
「いいよ――」
そう言いながらお化け屋敷に入っていく俺達。
そのお化け屋敷はトロッコのようなものに乗り、入り口から出口まで進んでいくというものだった。
「それでは、存分にお楽しみください・・・・・」
係員がそう言うと、トロッコが動き出した。
「こ、怖いね――」
「そうだね」
最初のうちは、叫び声が聞こえたり、火の玉が浮いたりするだけ。トロッコもゆっくり進んでいく。
と、突然トロッコの速度が速くなった。
「うわっ」
「きゃっ」
結構な速さで進んでいくトロッコ
と、突然目の前に死体の人形が落ちてくる。
「きゃーっ!」
彼女が悲鳴を上げた。
すると、彼女が、俺の手を握ってきた。
もちろん、身内以外の異性に手を握られるなんて、あの体育の授業の時だけだった。
あの時は、授業ということでしかたなかった。
だけど今は――
彼女が俺の手をぎゅっと握ってくる。
俺は、その手を握り返した。
彼女がハッとして
「ご、ごめん――」
と言うが、俺は
「いいんだよ」
と言って、彼女の手をしっかりと握り続けた。

その後もコーヒーカップ、メリーゴーランドと、いろいろなアトラクションに乗った。
そして、日の落ちてきたころ、俺は言った。
「あと、1つくらい乗って帰ろうか」
「そうだね――」
俺は園内案内を見て、何に乗るか探してみる。
「こ、これは?」
彼女が指さした先。それは、『観覧車』。
「観覧車か。そういえば乗ってなかったな。じゃあ、乗ろうか」
「うん」
そう言うと、俺達は観覧車の方へ歩き出した。

「はい、ではこちらでーす」
係員に誘導されて、観覧車の中に乗る俺と彼女。
当然だが、観覧車の籠の中には、俺と彼女の二人きり・・・・・
なんだか恥ずかしい気分になってくるなか、観覧車は上へ上へと上がっていく。
「高いね――」
「そうだね」
その後も無言が続く観覧車の中。
そして、ついに、観覧車の一番高いところまで上ってきた。
「景色、綺麗だね――」
彼女がそう言った。
俺は、窓の外を見た。綺麗に広がる夕焼け――
「そうだね」
俺もそう言って、彼女の方を向く。
彼女も俺の方を向いた。
一瞬ふれあう手と手。
「あ、ご、ごめん・・・・・」
「ううん」
しばらくそのまま無言で見つめ合っていた。
そして、俺から口を開いた。
「こっち、きて」
「えっ」
彼女は少し驚いたが、こっくりと頷くと、俺のいる方へと寄ってくる。
俺と彼女は多分同じことを考えているだろう。
そっと目を閉じる彼女。
俺も目を閉じて――
「はい、終了でーす。ありがとうございましたー」
ちょうどその時、観覧車が下に到着した。
係員に籠からおろされる俺と彼女。
俺はふと彼女の方を見た。
彼女も俺の方を見ていた。
お互いに顔が真っ赤になる。
――俺は何を考えていたんだ・・・・・
自分で考えていたことが恥ずかしくなる。
それからは、しばらく無言で遊園地内を歩き回っていた。
そして
「じゃ、じゃあそろそろ帰ろっか」
「そうだね――」
と言うと、遊園地を出た。

俺は
「家まで送るよ」
と言ったが、彼女は
「ううん、降りる駅違うと思うから、駅まででいいよ」
と返事をした。
駅に向かうまでは、お互いに無言で歩いていた。
――何か話題を見つけないと・・・・・
心の中では思っているのだが、話題がない。
ちらちらとこっちを見てくる彼女。
俺は、彼女の方に手を伸ばして、そっと手を繋いだ。
彼女は少し驚いたが、やんわりと握り返してくれた。
俺と彼女はそのまま駅へと向かった。

電車に乗り、家へと帰る。
「じゃあ、私、次の駅だから――」
そう言ってさきに電車を降りた。
「今日は、楽しかったよ。また行けるといいね」
「そうだね――」
「じゃあ」
「じゃあね」
電車を降りてもこっちを見ている彼女に向かって、俺は手を振った。

「ふぅ、ただいま」
「おかえりー」
家につくと、俺は自分の部屋に入って、PCを起動させる。
と、携帯が震えた。
手にとると、ディスプレイには、彼女の名前と『メール受信』の文字。


ちゃんと家につきました。今日はありがとう。楽しかったよ。また遊ぼうね


俺は、無言のまま、返信を打つ。


俺の今家につきました。俺も楽しかった。また余裕のある時に遊ぼう。


そして送信しようとした所で――
「メール?誰に?」
ハピマテが携帯の液晶をのぞき込んできた。
「うわっ!勝手に見るなよー」
「別にいいじゃない。それともまさかエッチなサイト覗いてるのー?」
「ち、違うよ!」
と言う俺に対して
「ムキになる所がますます怪しいー」
と笑っているハピマテ
そんなハピマテをよそに、メールを送信して、パソコンでVIPを開く。
「そういえばもうすぐ6月度発売かー・・・・・」
「そうだよ。だからもうそろそろ宣伝活動を本格的に開始しないと」
「そうだなぁ・・・・・」
そう言いながら俺は、メールソフトを開く。
「とりあえず友達に宣伝しておこう・・・・・」
そう言って、アドレス帳から友達の名前をクリックしていく俺。
と、その手がある人の名前の所で止まる。
そう、あの娘の名前だった。
――あの娘・・・・・。どうしよう・・・・・
今日、彼女と二人でいる所を見られてしまった。
――流石にその当日にメールするのはまずいか・・・・・
そう思って、あの娘の名前を飛ばして、宣伝メールを打ち込み、送信する。
「はぁ・・・・・」
俺はため息をついた。
――あの娘とのこと、どうすればいいんだろ・・・・・
「どーしたの?ため息なんかついて」
ハピマテが顔をのぞき込んでくる。
「あぁ、うん。なんでもないよ」
「ホントに?じゃあご飯食べようよ。お腹すいたー」
「そうだな」
そう言うと、俺とハピマテは一階に下りていった。

夕飯を食べて、自分の部屋に戻ってくると、携帯に着信があった。
「ん、メールきてるな・・・・・」
携帯を開くと、そこにあったのは――

あの娘の名前

俺の手が一瞬止まった。
メールを見るのが少し怖かった。
少し震える手でメールを、開いた。


あの、この前、あなたが1位にするとか言ってたCDあったでしょ?
あれって、次のバージョンっていつ発売なの?また買おうと思うから教えて


「・・・・・。」
俺は内心ほっとした。今日のことについては何も触れられていなかったから。
俺は、


7月6日だよ。値段は前と変わらないで735円だから。よろしく。


とだけ打ち込むと、送信のボタンを押した。

月曜日。
俺が学校に行くのが憂鬱だった。
――あの娘にどんな顔で会えばいいんだろう・・・・・
その事だけ考えていた。
メールでも何もなかったように返信してしまったため、ますます会いにくくなってしまった。
俺は、
「いってきます・・・・」
「いってらっしゃーい!」
ハピマテと挨拶を交わすと、学校に出発した。

ガラッ
ドアを開けて教室に入り、中を見回すと、あの娘はいなかった。
――あれ、おかしいな。いつもなら朝早くからいるのに・・・・・
そう思いながらもあいつに話しかけられ、話をする。
しかし、あの娘はなかなか現れない。
カバンもないので、学校にもまだきていないらしい。
結局、あの娘は朝の会が終わっても1時間目が始まっても来なかった。
――もしかして俺のことを気にして・・・・・
と一度は考えるが
――そ、そんなことあるわけないよな
と自分に言い聞かせる。
だが、心のどこかでは正直にあの娘のことを心配していた。
「そういえばあいつ来てないな。委員長」
1時間目が終わって、休み時間。あいつが話しかけてきた。
「あ、あぁ。休んだことなんてなかったのになぁ・・・・・」
あいつはどことなくそわそわしているようだった。
「ど、どうしたんだろうな――」
俺は何気なく言って、教室を出た。
その雰囲気に耐えられる自信がなかった。
――と、
「うわっ」
「きゃっ」
誰かにぶつかった。
「あ、ご、ごめん――」
そう言って顔を上げるとそこに立っていたのは、あの娘だった。
「あ――」
「えっと――」
お互いに言葉がでない。
当たり前のことなのかもしれないが。
「あ、あの――」
俺が口を開こうとした時、
「き、昨日はメール見てくれてありがと。あ、あのCDまた買うから!」
「あ、う、うん。ありがとう――」
「それじゃ」
そう言うとあの娘は足早に教室に入っていった。

放課後。
俺は、彼女に呼び出されて屋上へ向かった。
そして、屋上のドアを開けようとした時――
「あ、あの!」
ドアの向こうから声が聞こえてきた。
「先客入りか・・・・・」
そう思ってその場を離れようとしたその時、俺は気がついた。
――今の、あいつの声だ・・・・・
いけないこととは思いつつもその場にこっそり残り、話を盗み聞きする。
「あ、あのさ、前から言おうと思ってたんだけど――」
そして、俺は次に聞こえてきた声に驚きを隠せなくなった。
「なに?」
その子は紛れもなく――

あの娘の声だった。

「あ、あのさ、えーっと・・・・・」
「なに?はっきりいいなさいよ」
屋上には、今、あいつとあの娘がいる。
そして、あいつが言おうとしていることはなんとなく予想できた。
「お、俺――」
そこであいつは一端言葉を切った。そして、言った。
「俺、お前の事が前から好きだった。付き合ってくれ」

俺は、唖然とした。
あいつがあの娘のことをそんな風に思っていたなんて・・・・・
屋上からは何も聞こえてこなくなった。
二人とも、黙ってしまっているのだろう。
俺はその場を離れるか否か迷ったが、その場に残った。
あいつが告白してから4〜5分がたっただろうか。
「お、俺のこと、そんな風に思ってなければいいんだ。俺は、お前に知って貰いたかっただけだから・・・・・」
あいつの言葉はだんだんと小さくなっていく。
だが、あの娘は黙ったままのようだ。
「へ、返事は後でもいい。今じゃなくてもいいから。そ、それじゃ・・・・・」
あいつが屋上を去ろうとする。
俺は急いで隠れようとするが、無用だった。
「まって!」
あの娘があいつを呼び止めた。
そして、こう言った。
「わ、分かった・・・・・。私と付き合おっか。」
屋上のドアを開けようとしていたあいつの手が止まった。
「ほ、ホント?」
「うん」
「お、俺なんかでいいの?」
「・・・・・うん」
とたんにあいつの喜ぶ声が聞こえてきた。
俺は、そっとその場を離れた。

屋上から降りてくる途中に彼女と会った。
「ごめん。委員会の仕事が長引いちゃって・・・・・」
「いや、いいんだよ」
彼女の話は、今度の日曜日に何処かにいかないか、ということだった。
得に予定も入っていなかったので、俺はOKと返事をした。

俺は、あいつとあの娘のことが気になっていた。
あいつが、あの娘のことを好きだったことも驚いたが、それ以上にあの娘がOKと返事をしたことに驚いた。
――あの娘は俺に告ってきたけど、あいつに告られてOKするんだったら、男なら誰でもよかったのかな・・・・・
そう考えると、彼女にOKを出して正解だったのかもしれない、そう思っていた。
そんなことを考えながら、下へ降りていくと、あの人が立っていた。
「やぁ、待ってたよ」
「どうしたの?こんな所で・・・・・」
するとあの人をメガネの位置を直してから言った。
「君のクラスの委員長に君の友達が告白するの、聞いてただろ?」
「な、なんで知ってるの?近くに君いなかったはず・・・・・」
すると、あの人は頭をかいて
「君にだけ教えてあげるけど、屋上に盗聴器をしかけてあるんだ。屋上のドアの前でこそこそしてる君を見たから何を聞いてるのかと思ったら・・・・・」
「と、盗聴器・・・・・」
つくづく恐ろしい人だ・・・・・、そう思った。
「そ、それで、なに?」
「君は、君に告白した委員長が君の友達からの告白に答えたのを聞いて、委員長は男なら誰でもいいような人なんだ、って思ったろ?」
「う、うん。思った・・・・・」
すると、あの人は、ため息をつくと
「俺が思うに、委員長は君と他の女の子が歩いているのをみたんだろう」
「う、うん。見られた・・・・・」
「それで、委員長は、自分がまだ君のことを好きって思ってると思わせると悪い、そう思ったんじゃないかな」
俺は黙ってしまった。
そんなこと考えていなかった。あの娘は、俺に気を遣って、それであいつにOKしたのか?
「僕の勝手な憶測に過ぎないけどね。僕の経験から言うとそれだ」
「け、経験って・・・・・。君は二次元にしか興味ないんじゃなかったの?」
すると、あの人は、微笑んで
「言ったろ?僕は屋上に盗聴器を仕掛けてるんだよ。人の告白なんて飽きるくらい聞いてるんだ。それくらいの推測はできるようになるさ」
「そ、そっか・・・・・」
「まぁ、本当のところはどうか分からないからね。委員長に直接聞いてみれば?」
「そ、そんな・・・・・」
「ははは、冗談だよ」
そう言うと、あの人は
「じゃあ」
と言って帰っていった。
俺は、あの娘が本当にそう考えているのかと思うと、少し胸が痛くなった。


       (第二十二話から第二十七話まで掲載)