――そして、テスト当日。
正直、俺は、2つの作業を一度にやるというのは苦手だった。
だから、今までは音楽を聴きながら勉強したことなどなかった。
だが、ハッピーマテリアルを流しながらだと、何故か勉強がはかどった。
俺の思い過ごしなんかじゃない。確実に勉強の効率が上がった。
「よし、じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃーい。頑張ってねー」
ハピマテと挨拶を交わすと俺は家を出発した。


「おはよう」
と言って、教室に入るといつもはみんなで固まって喋っているのだが、今日は違った。
みんな、席に座って、参考書を見たり、教科書とにらめっこしたりしている。
「よう」
あいつが俺に話しかけてきた。
「よう。お前は余裕そうだな。みんな参考書見たりしてるのに」
俺がそう言うと、あいつは笑いながら
「ははは。今更参考書見たところでどうにもなんねーよ。俺の場合。」
と言ってきた。
「俺もそう思う。やれるだけの勉強はしたし。後は分かる問題が出るのを祈るか」
「おまえ、神頼みかよ!」
そんな平和な会話をしているのは俺達だけだった。
俺達はやっと空気を読むと、席に座ってテスト開始を待った。


担任が入ってきて、テスト用紙が配られる。
「はじめ」
の合図でみんなは、一斉に問題用紙をめくった。
「よし・・・・・」
俺は気合いを入れると、問題を解き始めた。


「ふぅ・・・・・」
やっと、全教科のテストが終わった。
俺は友人と軽く話しをすると、家へ帰ろうとした。
と、その時
「あ、あの――」
後ろから話しかけられ、振り向くとあの彼女がいた。
「ん、なに?」
「ちょ、ちょっと、その――。屋上に来て欲しいんだけど――」
うつむきながら言う彼女。俺は少し不思議に思いながらも
「わかった」
と言い、彼女と屋上に向かった。


「で、どうしたの?」
俺が言っても、彼女はうつむいたまま、顔を赤く染めて何も言わない。
「あ、あの――」
「ん?」
だが、彼女は何も言おうとしない。いや、言おうとはしているのだが・・・・・
俺は、よほど大事な話なのだろうと、彼女が言う気になるまでまとうと思った。
そして、3分ほどが過ぎただろうか。
彼女は息を大きく吸い込むと、言った。
「わ、私、あなたの事が好きでした。よければ付き合ってくれませんか?」
――えっ?
俺は、自分が何を言われたのか、一瞬分からなかった。
心の中で、何回か言われたことをくり返してから、やっと理解できた。
――今、告白された・・・・・?
何しろ、女子に告白されるなんて初めてだったし、しかもそれがかなり可愛い子からだったら、誰もが驚いて、声も出なくなるだろう。
「あ、あの、その――」
今度は立場が逆になってしまった。
俺は言葉を出すことができない。
彼女は、顔を耳まで赤くしつつもこっちをじっと見つめている。
「え、えっと――」
俺は、散々考えたあげく、こう言った。
「ご、ごめん。お、俺、誰にもそういうこと言われたことなかったから――。ちょっと、まだ分からない・・・・・。今日の夜まで待ってくれ。返事を必ずするから・・・・・」
すると、彼女は
「分かった。返事くれるまで待ってるから」
と言うと、そのまま走っていってしまった。
俺は、しばらくその場に立ちつくしていた。


俺は、しばらくして、家に帰ろうと1階へ向かった。
そして、靴箱を開けると、何かが落ちてきた。
「ん?」
拾い上げると、薄いピンク色の封筒だった。
表には、俺の名前が書いてある。
そして、裏には、あの娘の名前が書いてあった――


俺は、しばらくそのまま硬直していた。
俺は意を決して封を開けてみた。
その内容は、俺が思っていた通りのものだった。


ラブレター


あの娘のことは、前から好きだった。
けど、一日に2人の女子から告白されるなんて初体験。俺は、どうしていいかわからずに、その手紙をポケットに突っ込むと、家へ走って帰った。


「た、ただいま・・・・・」
「おかえりー。テストどうだったー?」
そういうハピマテに俺は
「ごめん、その話は後に・・・・・。今は一人にさせてほしい・・・・・」
と言うと、急いで2階へ上がってドアの鍵を閉めた。
「どうしたんだろ・・・・・」
ドアの外でハピマテがつぶやいて、1階へ降りていったのが分かった。
俺は、ポケットから手紙を取り出すと、もう一度内容を眺めた。
当然だが、さっきの内容と変わっていない。
「う、うーん・・・・・」
俺はうなり声を上げた。
女子から告白される、というだけで初体験なのに、一日に2人から、となると・・・・・
さすがに、俺も気がまいってしまう。
俺がどうしていいかわからずにぼーっとしていると、ふとパソコンが目に入った。
「そうだ、あいつらなら――」
そう言うと、俺はパソコンの電源をつけて、ニュー速VIPへ向かった。
ニュー速VIPのスレ一覧の中からハッピーマテリアルスレを探して、ログを読む。
俺は、こんなことをしていいものか迷ったが、自分一人では何も出来ない、そう思いキーボードを叩き始めた。


みんなに聞いて欲しいんだけどさ。
今日、女子2人に告られた。
俺、告白されるなんて初めてだったからどうしていいか分からなくて・・・・・
しかも、1日に2人にされたもんだから、もう気がまいっちゃって・・・・・
よければなんかアドバイスください。


俺は、文章を見直して、投稿ボタンを押した。
と、レスはすぐに返ってきた。


おまwwwwwwwwハピマテスレで電車男wwwwwwwおkwwwwwww
とりあえずお前がどっちが好きなのかを優先するべきだと思う。
お前はどっちが好きなんだ?それとも他に好きな人がいるのか?


ちょwwwwwwとりあえずハピマテ聴いて落ち着けwwwwww
そういうのは俺達がアドバイスすることじゃないと思う
お前がどうしたいのか、それが大事だと思う。恋愛経験0な俺が言うのもなんだがorz
釣りだったら吊ってきますorz


俺は、スクロールバーをおろして、みんなからのレスを見た。
「どっちが好きか、か・・・・・」
あの娘のことは、前から好きだった。しかし、ずっと片思いだと思っていたので、付き合うとか、そういうことは考えたこともなかった。
あの彼女のことは、好きとかそういう恋愛感情は無かったと思っていた。
しかし、いざ告白されてみると、俺は、彼女のことが好きだったのか?という思いがこみ上げてくる。
「ど、どうしよう・・・・・」
俺は、悩んだ。悩んで悩んで、もう頭がどうかしてしまうのではないか、と思うくらい考え続けた。
そして、決めた。
VIPには


俺、返事決めたよ。アドバイスしてくれたみんなマジthx


と書き込むと、携帯でメールを送った。
あの娘には、「ごめん。今まで通り、友達として仲良くしてほしい」と。
そして、彼女には、「俺でよければ、よろしくお願いします」と――


俺はメールを送り、しばらく携帯を見つめていた。
何故、彼女にOKを出したのか・・・・・
正直なところ自分でもよくわからない。
最初に告白してきたから、直接口で言ってくれたから、以前疑いを解いてくれたから・・・・・
いろいろ考え方はあるが、直感的な物が強かったと思う。
彼女からのメールはすぐ返ってきた。


本文:ホントに?ありがとう。これからよろしくね


と、メールを見た時、
「ねぇ、入っていい?」
ハピマテがノックして訊いてきた。
「あ、ちょっとまってろ」
と言うと、携帯を閉じて、部屋の鍵を開けた。
「何やってたの?」
「え、あ、まぁ・・・・・いろいろ・・・・・」
曖昧な答えをする俺を見つめて
「ま、いっか」
と、パソコンに向かうハピマテ
結局その日はあの娘からメールは返ってこなかった。


翌日。
俺は、あの娘とどういう顔で会えば良いのかわからないまま、学校へ向かった。
ガラッ
意を決して、ドアを開ける。
「おはよう」
教室に入っていくと、いつものようにみんなが固まって話をしていた。
横目であの娘の方を見ると、あの娘もクラスの女子と話をしている。
いつもと同じように。
「どうした?女子の方ばっかり見て」
あいつが話しかけてきた。
「い、いや。なんでもない」
「ホントかぁ?」
少し怪しんできたが、その後、特に気にする様子もなく、また友人と話し始めた。


放課後。俺は、彼女を屋上に呼びだした。
「あ、あの――」
「昨日は、メールで言っちゃったから、直接言いたくて」
俺の心臓はもう破裂寸前だった。
「お、俺でよければ、こっちからもお願いします。俺と付き合ってください」
多分顔は耳まで真っ赤だっただろう。
彼女は、少し驚いて、顔を赤くしたが
「う、うん。よろしくお願いします――」
と言った。
「ありがとう」
「こちらこそ――」
そう言うと、俺は
「じゃ、じゃあ」
と言って、屋上から去っていった。


家へ帰ろうと昇降口に行くと、あの人が立っていた。
俺はその場を通り過ぎようとすると、
「ちょっとまって」
とあの人が話しかけてきた。
「え?なに?」
俺が言うと、あの人は眼鏡を人差し指であげて
「君って、僕のクラスの女子と付き合ってるの?」
と訊いてきた。
「・・・・・えっ?」
俺はそう答えるしかなかった。
「もっと正確に言うと、君が濡れ衣着せられた時に疑いを晴らした子と。」
「・・・・・」
俺は黙った。黙るしかなかった。
「付き合ってるんよね?」
「・・・・・うん」
俺は、もう逃げられないと思った。ここまでズバリ言われてしまってはどうしようもなかった。
「なんで分かったの?」
「雰囲気がそれっぽかったから。これといった確証はなかったんだけど」
・・・・・つくづく恐ろしい人だ。
そう思った。
「あの・・・・・」
「わかってる。誰にも言わないよ」
そう言うと、あの人は
「じゃあ」
と言って、去っていた。俺はそれを見ているしかなかった。


次の日曜日。
「ねぇねぇ」
寝ていた俺をハピマテが揺さぶって起こしてきた。
「う〜ん・・・・・。なに?朝っぱらから・・・・・・」
目を開けるとハピマテがよそ行きの服を着ている。
「今日はせっかく休日だし、どっかに遊びにいこうよー」
そういうハピマテに、俺は
「やだ」
と一言言うとまた布団にくるまった。
しかし、布団を無理矢理はがすハピマテ
「ねぇ、いこうよいこうよ!」
耳元で「いこうよ」を連呼するハピマテ
俺はしょうがなく起きあがり、
「わかった。じゃあ街にでも行くか・・・・・」
と言って、着替えはじめた。


街へ行くといっても、だたそこら辺をぶらぶらするだけ。
「ねぇ、どこいこっか?」
「んー、じゃあ、また漫画喫茶にでも行く?」
俺が言うとハピマテは笑って
「いいよー。じゃあいこう!」
と言って走り出した。
「ちょ、まてよ!」
そう言うと俺もハピマテを追って走り出した。
それが物事の発端となるとは知らずに――


翌日。
俺が学校に行くと、なにやら男子が俺の所によってきた。
「どうした。朝っぱらから」
そう言うと、他の連中はこっちをみながらニヤニヤして言った。
「おい、お前、昨日、漫画喫茶に行っただろ」
「行った。で、それがどうした?」
すると、あいつが出てきて言った。
「俺、見ちゃったんだよね。お前が同い年くらいの女の子と一緒に漫画喫茶に入るの・・・・・」
「えっ?」
同い年くだいの女の子・・・・・
そうか、ハピマテか・・・・・
「あ、あの子は――」
「わかってるわかってるって。へへ、お前、もうクラス中の噂だぜ」
俺は周りを見回した。全員が俺の方を見ていたが一斉に目をそらす。
「お、おい!誤解だって!あの子は――」
「おっと、言い訳は無用だぜ。まぁ、この年になって彼女の1人や2人いたっておかしくないって」
「で、誰なんだよ。あの子は。この学校の生徒じゃないよな?」
みんなが俺を質問責めにする。
「だから!」
俺が弁解をしようとしたその時、チャイムがなって、みんなが逃げるように席に座った。


放課後。
俺は、係の仕事があったため、一人で教室に残っていた。
すると、彼女が教室に入ってきた。
「あ、あの――」
「ん、あ、どうしたの?」
俺が訊くと、彼女はうつむきながら
「き、昨日女の子と街を歩いてたって聞いたんだけど――」
そう言われてから、俺は気づいた。
あの、噂、隣のクラスまで伝わってたのか・・・・・
「い、いや。アレは違うんだ。あの子は、俺の従妹なんだよ」
そう言うと、彼女は安心した顔をして
「そ、そうなんだ。ごめん。私、あなたのことちょっと疑っちゃって・・・・・」
「いやいや、いいんだよ。俺も誤解されるようなことしたのが間違いだったと思うし」
お互いに謝ってから
「あ、あの・・・・・。俺ときみが付き合ってるっていうことは――」
「で、できれは内緒にしててほしいんだけど――」
お互いに、改めて付き合っているということを言葉に出すとどうしても顔が紅潮してしまう。
「わかった。じゃあ、これで、俺達がつ、付き合ってるっていうこと疑われないと思うし」
「そ、そうだね。それじゃあ・・・・・。バイバイ」
「バイバイ」
そう言うと、彼女は教室を去っていった。
俺は、また仕事に取りかかり始めた。


       (第十八話から第二十一話まで掲載)