「お、おい、どうしたんだよ!」
俺は動揺した。
あいつが泣くところなんか、見たことがない。
「・・・・・・」
ずっと黙っているあいつの目から一筋の涙が流れる。
どうやら俺の目の錯覚ではないらしい。
「ま、まずどうしたのか言ってみろ、な?」
俺がそう言うと、あいつは涙を服の袖でぬぐい、
「ちっ、人前で泣くなんて俺も落ちたもんだな・・・・・」
と無理矢理笑顔を作って見せた。
そして、頭を振ると、一つため息をついた。
「どうしたんだ?突然呼び出されていきなりこれじゃ、俺も気になるって」
俺は、なるべく軽い口調で、軽い言葉を選んでから言った。
「あぁ、まぁ、バンドのことでな・・・・・」
あいつは顔を耳まで赤くして、話し始めた。
「楽器担当の三人ってさ、俺以外物凄い人たちじゃん。俺以外の二人は顔も良いし、なにより自分のパートの楽器を凄く上手く演奏できる」
「あぁ」
俺は相づちをうちながら話しをきく。
「それに比べて俺はちょっとドラムのことをかじったくらいで、誰に習ってるわけでもなく、自分でちょっと練習したりしてるだけだろ?やっぱ、それじゃあ差が開いちゃうんだよなぁ、やっぱり」
そう言って、また無理に笑顔を作るあいつ。
「昨日パート決めたばっかなのに、もう楽譜もつくって練習までしてる。俺、なんかもうさ、存在意義ないんじゃないかっていうかさぁ・・・・・」
「・・・・・」
無言の俺。だが、心の中では様々なことを考えていた。
そんな俺をよそにして、話を続けるあいつ。
「俺、もうこのバンドにいる意味あるのかなぁ?仕切役だって、委員長にうばわれかけてるしさ。まぁ、委員長なんだから引っ張る役目に適してるのは当たり前だけどさ」
ため息をつき、あいつは最後の一言を言った。
「それで、友達のお前にこんな話を意味もなくしたってわけ。ま、軽く聞き流してくれ」
「・・・・・」
無言のままの俺を見て、あいつは少しがっかりしたような表情をしたものの、すぐに何も考えていないかのような表情をとり、
「じゃ、これで解散とするか。お前も付き合わせて悪かったな」
と言った。
そう言うあいつに俺は、
「おいおい、ちょっとまて」
と声をかける。
「ん?」
こっちを振り向くあいつ。
そんなあいつに、俺は笑いながら、一言言った。
「――お前、馬鹿だろ?」
「・・・・・んな、なに!?」
あいつは驚いていた。
当たり前だろう、こんな話をした後にいきなり「馬鹿」と言われたのだから。
「おいおい、確かに俺は頭よくないけど・・・・・」
「あぁ、お前頭悪すぎだよ。馬鹿。」
俺はさらに続けた。
あいつは少し怒ったような表情を見せる。
そんなあいつを無視して俺は続けた。
「お前がバンドに必要ない?馬鹿か?ドラムはバンドにとって何より大事なパートだろ?上手だろうと下手だろうと、ドラムがないとはじまんねーよ」
「そりゃそうだけど・・・・・」
「それにさ、お前、一番大事なこと忘れてるって」
俺の言葉にあいつは少し考え込むようなしぐさをした。
だが、すぐに
「なんだよ、大事なことって」
と訊いてくる。
そんなあいつに俺はもう一度
「馬鹿。」
と言った後にこう続けた。
「お前がいないとこのバンドは集まらなかったってことだよ。お前はこのバンドを作った張本人なの。分かるか?このバンド、MATERIALSは、誰一人欠けても駄目なバンドなんだよ」
俺が言った言葉に、あいつは少し黙っていた。
が、すぐに、笑顔をみせた。今度は本当の笑顔だった。
「そうだな、はは、お前たまには良いこと言うじゃねーか」


翌日。
あいつは、元気を取り戻し、またあいつの家に集まってバンドの練習。
すぐに立ち直れるのがあいつの良いところだ。
その日はパートごとに練習。
やはり、彼女とあの人は流石だった。楽譜の速読即譜なんてわけないのだろう。
あいつのあいつなりに頑張っている様子で楽器が全然駄目な俺としてはかなりの腕前だった。
「じゃあ、歌合わせてみようか」
あの娘が話しかけてきた。
俺は少し動揺しながらも
「OK」
と答える。
あいつのPCからwinampを選び、mp3で保存されている輝く君へのカラオケ版をダブルクリックする。
家で何十回と聞いたメロディーが流れてくる。
出だしのパートを担当している俺は深呼吸して、心を整えると、歌い始めた。
「ずっと、かくしていた〜、きみの弱さ強がるふり〜」
「どんな、辛い日々も〜顔をあげて微笑むの〜」

――歌い終わり。
「・・・・・初めて合わせてみたけどどうだった?」
「んー、初めてにしてはいいんじゃない?やっぱりもっと声量は必要かもね。私もそうだけど」
「OK、把握した」
俺は、そう言った。なるべく、軽い口振りで。
「じゃあ、全体で合わせてみるぞー」
あいつが俺達を呼んだ。
「よっしゃ、OK」
俺はそう言うと、あいつやあの人、そして彼女が待っている部屋へと戻った。


――そして、いよいよオーディション当日。
事前の生徒会による発表によると、オーディションに参加予定のバンドは40以上あるらしい。
それを一日にして収集、結構、結果発表まで行うのだから、生徒会の手際は凄いものだ。
さて、その40バンドの中で合唱祭で演奏できるのは四分の一である10バンドだけ。
「さてさて、それではこれより合唱祭バンドコンテスト事前オーディションを開催したいと思います!みなさん、準備はいいですかぁ?」
生徒会役員の司会役の人がマイクを使って叫ぶ。会場からは数々の叫び声があがる。
「それでは、ただいまより開催します!プログラムはお手元のものをご覧ください!」
俺は貰っていたプログラムを見る。


1. 開会宣言
2. オーディション
3. 合唱祭バンドコンテストルール説明
4. 結果発表
5. 閉会宣言


「それでは、さっそくオーディションを始めましょう!エントリーナンバー1番、バンド名『大根下ろし』の皆さんです!!」
オーディションが始まった。
俺の緊張はピークに達する。
こうして聞いてみると他のどのバンドも自分達より上手く聞こえてしまう。人間とは、そういう生き物なのだろう。
順番はどんどん進み、いよいよ、出番だ。
手のひらに人という字を3回書いて飲み込む、という原始的なおまじないを使っていたら、あの人に
「なにやってるの・・・・・?」
と冷たい目で見られてしまった。
「ほら、始まるよ」
あの人が続けるとちょうど、前のバンドの演奏が終わった。
「はい、『ニッターズ』の皆さん、ありがとうございました!それでは、エントリーナンバー35番、バンド名『MATERIALS』、どうぞ!」
紹介をうけ、ステージ上に出ていく俺。
生徒会役員によって、楽器が運ばれてくる。
あいつがマイクを持つ。緊張しているようなそぶりは、ない。
「それでは、MATERIALS、合唱祭に参加するために日々練習してきました。そんな私達の努力の結晶をお聴きください。『輝く君へ』!!」
カッカッカッ
あいつのドラムがリズムを刻む。
あの人のベースを筆頭に、彼女のキーボードが続き、伴奏が始まる。
俺は、タイミングをうまくあわせるように心の中でリズムを刻みながら、息を大きく吸って、歌った。
「ずっと――」



――終わった。
彼女、あの人、あいつの演奏はまだ続いている。
俺はマイクを持った手を下げた。
そして、あいつのドラムの一音で俺達、MATERIALSのオーディションでの演奏が全て、終了した。
「ありがとうございました!」
あいつが言ったのを合図に、俺達は頭をさげる。
客席から拍手が起こる。
こういう時うける拍手は、他のバンドが受けていた拍手より、大きく盛大に聞こえるから不思議なものだ。
その場を退場する俺は、
――ここで落ちれば、今のがMATERIALS最後の演奏だったわけだよな・・・・・・
などと不吉なことを考えていた。
が、しかし、人間こういう場面におちいれば誰だってネガティブな考えをしてしまうんだろうと思う。
「はい、『MATERIALS』のみなさん、ありがとうございました。それでは続いてエントリーナンバー36番、『花鳥風月』のみなさんです!」
進行役の生徒会役員がバンド紹介をした瞬間、客席から
「キャー!」
と叫び声があがった。
何事かとステージの方を見る俺。
そこに立っていたのは、前回、前々回と合唱祭でのバンドコンテストで優勝しているバンドだった。
俺は、席に戻る間にそのバンド、『花鳥風月』について自分の知っている情報を整理することにする。
『花鳥風月』は、一年生で合唱祭バンドコンテスト優勝という快挙をなしとげたバンドグループである。
翌年、二年生に進級した時も優勝し、その名は生徒の中でさらに有名になった。
その勝因の第一といえば、やはり歌っている人だろう。
『花鳥風月』のメンバー6人は全員イケメン。女子からはカルト的人気がある。
俺達のMATERIALSにいる、あの人も女子から人気がある一人だ。
しかし、1人と6人ではあきらか差がでるだろう。
おまけに『花鳥風月』は、あのORANGE RANGEコピーバンドだ。
人気のある歌い手が人気のある歌手のコピーを歌う。人気が出るのは当然だろう。
もちろん歌も上手い。それは認める。
と、そんなことを考えているうちに楽器のセッティングが完了し、『花鳥風月』のリーダー格の人物がマイクを持った。
「『花鳥風月』今年も優勝目指して頑張ります。みなさん、応援よろしく!」
「キャー!」
客席の女子が一斉に叫び声をあげる。
「それでは、原曲作詞作曲ORANGE RANGEで『以心電信』!」
前奏が始まり、歌も始まる。
流石に優勝したところだけあって今年も上手い。
ふと、隣に座っていたあの人の方を見て、俺は驚いた。
「くそ、作詞作曲ORANGE RANGEじゃねーだろ・・・・・・」
とつぶやくあの人の顔はあからさまに空気をいやがっていた。
いつもポーカーフェイスなあの人が、こんな顔をして、しかもこんな台詞を口に出すとは思わなかった。
それほど、あの人はORANGE RANGEが嫌いなのだろう。そして、その歌を歌う『花鳥風月』も。
その時、俺はあらためて思った。あの人はやはりVIPPERなのだ、と。
そんな内に『花鳥風月』の演奏が終わる。
「みなさん、ありがとうございましたー!!」
『花鳥風月』が一斉に礼をした所で、また
「キャー!」
と叫び声。正直、飽きた。
「凄い人気でしたね。『花鳥風月』のみなさんでした。それではエントリーナンバー37番――」
『花鳥風月』が退場してくる。
あの人を見ると、わずかに、本当にわずかだが、『花鳥風月』のメンバーを睨んでいるように見えた。
『花鳥風月』のリーダー格の人がそれに気がついたようなそぶりを見せる。
そして、こっちに向かって不適な笑み。まるで勝ち誇ったかのようだった。
それは「俺達の方が上手い」ということなのか、はたまた「アニソンを歌うなんて馬鹿らしくて気持ち悪い」ということなのか。
とにかく、俺達MATERIALSを馬鹿にしていることは確かだった。
あの人はというとそんなことを華麗にスルーし、眼鏡をなおしてステージの方に向き直る。
そんなあの人の反応に『花鳥風月』は面食らったような顔をして、そのまま、自分達の席に戻っていった。
その時、俺は思った。
『花鳥風月』にだけは、負けたくない、と。


「それでは、全てのバンドの演奏が終わりました!」
生徒会の司会が言ったのとほぼ同時に
「おぉー!」
と叫び声が会場から上がる。
「現在生徒会役員が『合唱祭生徒会主催バンドコンテスト』に出場する10組のバンドを選出中ですので、その間に私から今年のバンドコンテストのルールを説明しておきましょう!」
わざわざ、『今年の』とつけるくらいだから、去年とはルールが違うのだろう。
俺はそんなことを考えて気を紛らわせようとしたが、やはり気が気でない。
手は汗で濡れ、知らず知らずのうちにズボンを握っていた。
「今年のバンドコンテスト、昨年までとは少し変化します。生徒会新スローガン『生徒一人一人の意見を大切に』を生かし、新たな審査方法を組み込むことになりました!」
後ろの方でパソコンをいじり、スライドが上映される。
そこには、『新審査方法発表!』という文字があり、下に細かな説明が記されていた。
「昨年までは、審査は生徒会役員のみが行っていました。しかし、今年は変わります!」
と、BGMが流れ始めた。こういう細かい演出には感動させられてしまう。
「今年は、まず事前に各クラスの学級委員にクラス人数分の審査用紙を配布し、それをクラスの中に配っていてもらいます。そして、本番、バンドコンテスト発表が終了した時点で生徒のみなさん個人個人に記入していただき、それを学級委員が回収、生徒会に提出します」
スライドが新しいものに切り替わる。
「そして、生徒会役員それぞれが気に入ったバンドに一票ずつ投票。回収された審査用紙をもとに集計を行い、生徒のみなさんが選んだもので1位だったバンドには5票、2位だったバンドには2票を追加し、それを最終結果として優勝バンドを決定します!」
司会の人がルールを説明している間、俺達にはプリントが配られた。
「今言ったことは、今配布しているプリントにも載っているので、分からなかった方はそれを見て確認してください!」
俺は配られたプリントを見た。プリントが手汗で少し湿る。
さっき司会の人が言ったことのまとめのようだ。
プリントには次のように記載されていた。



合唱祭生徒会主催バンドコンテスト新ルール決定!


学級委員に審査用紙をクラスの人数分配布し、学級委員を通してクラス全員に配布します。

本番、各バンドの演奏が終わった所で生徒が各自で審査用紙に一番良いと思ったバンドを記入

学級委員がそれを回収。生徒会役員席まで提出

結果発表の際は生徒の選んだものを集計し、結果生徒内で最も人気のあったものには5ポイント、次に人気のあったものには2ポイントを追加する。

最後に生徒会役員15名が1人1ポイントずつ気に入ったバンドに追加していき、生徒内と生徒会役員の合計が最も多いバンドを1位とする。



「要するに、今までとは違って生徒の意見も最終結果に入れるってことか。これじゃあますます歌い手の人気投票になっちゃうんじゃないか?」
あの人が俺に話しかけてきた。あの人から、なにか話しかけてくるなんて珍しいことだったので、俺は少し驚いたが、
「でも、生徒の中にも素直に演奏の上手いところに投票する人も少なからず居ると思うけど」
と答える。
「そうならいいんだけど。もしMATERIALSが予選通過したらハピマテを歌ってる僕たちに投票してくれるかもしれないけど、ハピマテを知らない人やオタクアンチの人は別のものに投票するだろうな」
あの人は、まだこの審査方法に納得していないようだ。
そんなあの人に俺は
「でも素直に頑張って練習して全バンドの中で一番上手い演奏をした人たちが勝つんだよ。実際は」
と言い、ステージの方を向き直った。
ちょうどその時、司会役の役員が生徒会長を引き連れてやってきた所だった。
手にはなにやら小さな白い紙を持っている。
「では、オーディションの審査が終了したようですので、生徒会長から結果発表をしてもらいたいと思います!では、会長、お願いします!」
そう言って生徒会長の手にマイクを渡す。
生徒会長は、口を開くといつものようなはきはきした口調で結果発表を始めた。
「それでは、生徒会主催バンドコンテストに進んだ10組のバンドを発表します――」


「生徒会主催バンドコンテストに出場する10組のバンドは――」
とたんに俺の胸の鼓動がはやくなった。
背中に冷たい汗が流れ、顔が火照って真っ赤になる。
――ここで35番の番号が呼ばれなければ、俺達のバンドもここまでになる。
そう思うと、なんだか胸が苦しくなった。
そんな俺のこともお構いなしに生徒会長は番号とバンド名を淡々と読み上げ始める。
「4番『美ぃ盗るズ』、7番『素野チョップズ』・・・・・」
名前が読み上げられるたびに
「わー!」
という歓声が起こり、逆に番号を飛ばされると
「あぁ・・・・・・」
というため息が会場全体から聞こえる。
俺は読み上げられたバンドの数を指折り数えてた。
そして、エントリーナンバー33番が当選したところまで読み上げられる。
今、合格しているのは8バンド。
俺達のエントリーナンバーは35番。
ここから、時間がゆっくり流れ始めたような気がする。
生徒会長の口が開く。
そして、会長は、番号を読み上げた。
「35番『MATERIALS』・・・・・」
――えっ?
今、読み上げられたのか?
一瞬、俺の思考回路が固まった。
その固まった思考回路が動き出すきっかけになったのは隣に座っていたあいつの
「よっしゃー!」
という叫びだった。
俺もつられて
「やった!」
と声をあげる。
あの娘や彼女もガッツポーズ。
あの人の方を見ると、少し、少しだけど笑っている。
喜んでいる俺達を見ていないかのように生徒会長は最後の1バンドを発表した。
「36番『花鳥風月』。以上10バンドがバンドコンテスト出場決定です。おめでとうございます」
やはり、きたか。
俺はそう思った。当たり前と言えば当たり前だろう。注目のめだまバンドを生徒会が選出しないわけがない。
が、しかし、やはりMATERIALSが選ばれたのは素直に嬉しかった。
あいつの発言で唐突にできたバンドだったが、生徒会からアニソンが認められたと思うと、これは誰でも嬉しいものだろう。
「それでは、選ばれたバンドのみなさんはバンドコンテストに向けての練習を頑張ってください。尚、必ずしも今回のオーディションで演奏した曲でなくても構いません。バンドコンテスト用に新しい曲を用意しても結構です。ですが、バンドコンテストで演奏できる曲は原則として1曲のみ、ということになっていますのでその点をご了承いただいた上で練習していただくようにお願いします。それでは、解散」
生徒会長の最後の言葉で客席のメンバーは一斉に立ち上がって会話を始める。
通過を祝う姿、落選してしまったのを慰め合う姿。
俺達はもちろん前者だった。
「とりあえずは、やったな」
あいつが話しかけてくる。大分落ち着いたみたいだ。
「うん」
あの娘が笑顔で返事をした。とびきりの笑顔だった。
彼女も笑いながら
「これからも頑張らないとね――」
と言った。
あの人はあの人で、まだ『花鳥風月』や新しい審査方法について考えているようだった。
そして、俺は
「これで、本番でハッピー☆マテリアルが歌えるわけだ。な?」
とみんなにほほえみかける。
そんな俺の言葉にあいつは
「だな。ハピマテを味方につければ、俺達もハピマテ最終版も1位間違いなし!ハッハッハ!」
と笑った。
そんなあいつを見て、俺もつられて笑ってしまう。
あの娘も、彼女もつられて笑う。
あの人も、ふふっ、と笑うが目が笑っていない。あきらかな作り笑い。
が、しかし、俺達が改めて団結した瞬間だと思った。
「じゃあ、本番にむけて・・・・・」
あいつがそう言って手を出す。
俺達は空気を読み、その上に順番に手を乗せていく。
そして、あいつの一言。
「がんばるぞ!」
「オーッ!」


       (第五十四話から第五十八話まで掲載)