――5月某日。


俺がそれと出会ったのは、唐突だったんだ。
まさかこんな出会い方をするなんて思っても見なかったんだ。
まぁ、そんなことが起こる事も思っていなかったんだけれど・・・・・


「おい、おい!きいてんのかよ!」
「え?なに?」
学校の給食の時間。俺は、いたって普通に給食を食べていた。いや、食べているつもりだった。
「お前、さっきから何にも言わないでどうしたんだ?気分でも悪いのかよ?」
「い、いや。なんでもないよ。で、どうした?」
なんでもないなんて嘘だった。さっきからなんとなくぼーっとしていた。俺にしては珍しいことだった。
「今日さ、俺、給食時間の校内放送におもしれー歌リクエストしたからよくきいとけな」
ニカッと白い歯を見せられるが、俺は気が進まない。
こいつが俺に音楽を聴かせて批評させるのはいつものことなのだ。
俺は、学校では結構有名な音楽に対しての毒舌家だった。
ありとあらゆる曲を批判し、毒舌を吐く。こんなことは好きでやっているのではなかった。ただ単にピンとくる曲がないのだ。
最近の音楽業界はどうかしている。有名歌手だからと言って、他の曲に似ているものを平気で発売するし、その曲は決まって1位になる。
「お、これこれ」
そんなことを考えているうちにあいつがリクエストした『おもしれー曲』が流れ始めたのだ。
・・・・・えっ?
俺は一瞬呆然とした。悪い意味でではない。学校のスピーカーからこんな曲が流れてくるなんて思っても見なかった。
こんな感覚は初めてだった。自然に音楽に合わせて心がのってくる。体が自然にリズムを刻む。
今まで1000を超える曲を聴いてきた俺だったがこんな・・・・・
「おうおう、どうだ?いつも通りのきっつーい毒舌をよろしく!」
あいつが俺の顔をのぞき込んできた。俺は口を開いた。
「アップテンポで、リズミカルで・・・・・。歌手の声も通っていて良いし・・・・・。なんていうんだろ・・・・・・。良い曲だな・・・・・・」
顔を上げるとあいつは唖然としていた。口をぽっかりとあけて俺のことを見ている。
と、こいつは急に笑い出した。
「ハッハッハ!お前がそんなこと言うとは思ってもみなかった!お前、どうかしてるんじゃねーの?」
「いや、今まで聴いてきた曲とはなんか違う。何処がって言われると分からないけど・・・・・。
これ、なんて曲?」
すると、こいつはニヤッと笑うと、言った。
「『ハッピー☆マテリアル』って曲さ。はは、お前、アニメソングのオタクソングだぜ?毒舌音楽評論家のお前がアニソンなんかに手を出すとは思ってもみなかった!」
「え?・・・・・アニソン?」
俺が驚いたのは言うまでもない。アニソンなんか、そこら辺の歌手がただ面白がって歌っているだけだと思って、聴いたこともなかった。
「お前、しかもこれ声優が歌ってるんだぜ?アーティストじゃなく」
「はい?せ、声優!?」
「周りを見て見ろよ。みんなだまりこんじまって、ヒいてるぜ?」
本当だ。確かに周りを見ると顔を赤くして給食を食っている奴、クスクスと笑っている奴、隣とひそひそ話をする奴、誰一人としてこの曲に好感を抱いている奴はいなかった。
「ったく、買ってみたはいいものの、あんまりな曲でがっかりしてた所さ。やっぱ時代はオレンジレンジだよなー!」
一人ではしゃいでいるこいつを見もせずに俺は曲に聴き入っていた。
・・・・・ハッピーマテリアル。なかなか、いや、かなり良い曲じゃないか。
午後の授業のとき、俺の頭の中ではさっきの曲が永遠と繰り返し再生されていた。
授業が頭に入ってこなかった。俺はあの曲に『一目惚れ』していた。


授業も終わり、下校時間になった。
俺はチャイムが鳴ると同時に急いで学校を飛びだした。はやく家に帰って、さっきの曲の詳細を知りたかったのだ。
「ただいまー!」
俺は家につくと急いで階段を駆け上がり、二階にある自分の部屋のドアを開けた。
「あ、おかえりなさいー」
・・・・・え?
家には誰もいないはず。父親も母親も、仕事だ。
もしかして泥棒?いや、泥棒が「おかえり」なんて返事をするはずないし・・・・・
そう思い、部屋を見渡すと、ベッドの上に一人の女の子が座っていた。
「・・・・・・き、きみは誰?」
おそるおそる訊いた俺に、女の子はにっこり笑って言い返した。
「誰って、私、ハピマテだよ?あなたが今日、良い曲だって思ってくれた」


「・・・・・ちょ、ちょっとまってくれ」
俺は深呼吸をして心を落ち着かせると、もう一度言った。
「きみは誰なんだい?」
すると女の子はちょっとむっとして言った。
「だからハピマテだって。私はハピマテなんだよ。あなた、今日、学校で『良い曲だ』って思ってくれてたじゃない」
まてまて。まってくれ。俺が良いなって思ったのは、女の子じゃなくて音楽だったはずなんだ。でもこの子は自分で自分のことをハピマテだって言ってるし・・・・・
「・・・・・ハッピーマテリアルって音楽じゃないの?」
「音楽だよ」
間髪入れずに言い返してくる女の子をじっと見つめる。
落ち着いてみるとなかなか可愛い子だ。年は・・・・・俺と同じ15歳くらいか。
「じゃあ君は音楽なの?」
「そうだよ」
またすぐに答えた。だんだん頭が混乱してきた。この子は音楽・・・・・。でも音楽は人じゃない・・・・・。
「君は人だよね?見た目音楽には見えないんだけど」
「違うってば!何回言えばわかるの?私はハピマテなの!」
怒られてしまった。俺は
「ちょっとまって」
と言って、部屋にあるパソコンを起動した。
お気に入りからgoogleを選んで、『ハッピーマテリアル』と入力し、検索をかけた。
「あった、これだ。735円、NOW ON SALE・・・・・。安いんだなぁ」
「安物で悪かったわね!」
俺はマウスから手をはなし、後ろを向いて、女の子を見た。
「いいかい。今調べたけどやっぱりハッピーマテリアルはCDだ。君はどうみても人間だろ?何かのドッキリかしらないけど、俺は騙されないからな」
「そ、そんな・・・・・。酷いよ・・・・・」
女の子はうつむいて泣き出してしまった。
「ちょ、ちょっと、泣かないで・・・・・」
どうも女の子が泣いている場面は苦手だ。なんと声をかけていいか分からないし、それになにか力になってあげられるわけでもないのに声もかけにくい。
「じゃ、じゃあ、私が本当に『ハピマテ』だっていうこと、信じてくれる?」
涙目で見つめられ、俺は少しびっくりしたが、
「う、うん」
と返事をするとなんだか心が軽くなったような気がした。
「や、やったー!」
女の子は、突然涙を拭いて喜びだした。
「と、突然で悪いんだけど、きみはハピマテなんだよね?だったら、ちゃんと音楽も流せるよね?」
「流せないよ」
唖然とする俺。まぁ、考えてみればこんな女の子が音楽を流せたら大した物なのだが・・・・・
「で、でもきみはハッピーマテリアルなんだよね?」
「そうだよ。私はハピマテだよ。でもハピマテを流すことはできないよ」
駄目だ。何を言っているかまったくわからない。
「でもハピマテを聴かせることはできるよ」
そう言うと女の子はポケットをあさると1枚のCDを取り出した。
さっきネットでみたハッピーマテリアルのジャケットと同じ物だった。
いや、微妙に違う。描いてある女の子の絵が違う・・・・・?
ハピマテにはいろんなバージョンがあって歌ってる人も違うんだよ。学校であなたが聴いたのは『4月度バージョン』。これは『1月度バージョン』」
そう言いながら女の子はCDをPCに入れ、WMPを起動させ、再生をクリックした。
さっきの曲だ。いや、微妙に違う。さっき言ってた『バージョンの違い』なんだろう。伴奏と歌手が違うのが分かる。でも、学校で聴いたものと同じく心に響くなにかを感じた。
次に流れ始めたのはカラオケバージョン、その次に恐らく歌っている声優さんのトークがあった。
「はい、これで終わり。どうだった?」
女の子はCDを取り出し、またポケットの中にしまうと訊いてきた。
「うん、学校のと同じで良い曲だった」
「じゃ、じゃあさ。ハピマテの事、好き?」
ちょっと顔を赤らめながら訊いてくる。俺はよくわからないまま
「うん、好きだよ。良いと思う」
すると女の子は
「わーい。そんな、私、どうしよう・・・・・」
そこで俺はやっと気がついた。この女の子も『ハピマテ』だったんだ。
「いや、そういうことじゃなくて、俺は曲が良い曲だって言ったんだよ」
すると女の子はしょぼーんとして言った。
「なーんだ・・・・・」
「ん、えーっと・・・・・。そうだ。きみはなんで俺の家に居たの?」
するとしょぼんとしていた女の子はポンと手をうって
「そうだそうだ。言い忘れてたね。私はあなたみたいにハピマテを好きになってくれる人を探してたの」
「・・・・・いったい何のために?」
すると女の子はビシっと俺に指を差すと、言った。
「あなたには私を1位にしてもらうよ。よろしくね」


俺は、女の子の言葉を聞いたあと、声が出なかった。
「どうしたの?大丈夫?」
女の子に言われ、はっとする。
「えっと・・・・・君を1位にするってことは・・・・・ハッピーマテリアルを1位にするっていうこと?」
「うん、そういうことだよ」
頭の中が混乱してきた。
「1位っていうのはオリコンかなにかで?」
「そうだよ。オリコンのウィークリーでだよ」
事態がやっと飲み込めてきた俺は、くすっと笑ってしまった。
「あー、今笑ったー!ひどーい!」
「いや、ごめんごめん。でもハッピーマテリアルってアニメソングだよ。そんなに1位になんて無理だよ」
その通りだと思った。それに、ハッピーマテリアルはもう発売してしまっているんじゃなかったか?
「無理なんかじゃないもん。それにハピマテはまだ5月度バージョンと6月度バージョンの発売が残ってるんだもん」
「でもなぁ・・・・・」
頬をぷーっと膨らませて起こっている女の子に俺は
「アニソン、しかも歌ってるのが声優の曲が1位なんて夢のまた夢じゃないの?なんでそんな1位にしたがるの?」
と声をかけた。それでも女の子は
ハピマテなら1位も夢なんかじゃないんだもん。だって4月度バージョンは3位になったんだよ?」
その言葉には流石に驚いた。アニソンがオリコンで3位?
「3位か・・・・・。それは凄いな・・・・・」
「でしょ?でしょ?私って凄いでしょ?みんなに協力してもらってCDをいっぱい買って貰えば、1位も無理じゃないと思うよね?」
にこにこしながらこっちを見ている女の子を見ていると本当に無理じゃないような気もしてくる。
でも・・・・・
「でもさぁ、そんな俺が言ったからってみんな協力してくれるかなぁ。それに協力っていったって多くてクラスメイト30人くらいが限度だろうし・・・・・」
「頑張ればもっとあつまるもん!それに、学校だけじゃなくて、親戚の人とか・・・・・とにかくいろんな人に頼めば・・・・・」
俺の顔をじーっと見てくる女の子。女の子にこんなに顔を見られたことなんてそんなに無かった俺はちょっと胸の鼓動が高まってしまう。
「と、ところできみは・・・・・」
ここまで言った所で女の子が
「あー!もう、私のこと『きみ』なんて呼ばないでよー!ちゃんと『ハピマテ』って名前で呼んでよー!」
「え・・・・・・。じゃ、じゃぁ、ハピマテはなんでそんなに1位に拘るの?」
「えっ・・・・・・」
そういうと、女の子・・・・・いや、ハピマテは黙り込んでしまった。
「ねぇ、なんでなの?」
「え、えーっと・・・・・ほ、ほら!私はハピマテだから!自分自身が1位になったら嬉しいからー・・・・・」
「ふーん・・・・・」
俺は納得した振りをしたが、ハピマテがとっさの言い訳をしたのは目に見えていた。
まぁ、そんなこと別にいいか。まさか、会社が営業のためにこんな女の子を使うとは思えない。
「で、どうするの?本当に。そんな俺の知り合いだけじゃ、アニソンをオリコンで1位なんて無理だよ」
「え、えっとねー・・・・・。どうしよう?」
と言ってからハピマテは、はっとして言った。
「え、もしかして、1位にするのに協力してくれるの?」
じっと見つめてくるハピマテにたじろきながらも、俺は
「う、うん。なんかハピマテも必死みたいだし。理由はよくわからないけど、俺もなんかやってみようかなって。なんか面白そうだし・・・・・」
と言った。するとハピマテは腕を振り回しながら
「やったー!ありがとー!ホントに乗ってきてくれるなんて思ってなかったー!」
とはしゃぎだした。
――見た目は同い年くらいなのに、ホント子供だなー・・・・・
苦笑しつつも、俺は、
「とにかく、これを成功させるための手段を考えないと」
「そうだよねー・・・・・。うーん・・・・・」
腕を組んで少し考えていたハピマテは、ポンと手を打つと、俺の部屋にあるパソコンを指さして言った。
「そうだ!インターネット!インターネットがあったー!」


「・・・・・へ?インターネット?」
「そう!インターネット!」
俺は、パソコンの方をじっとみた。何の案も浮かばない。
「・・・・・インターネットで何をするのさ?」
「だからさー、インターネットって人がたくさんいるでしょ?そこで『ハッピー☆マテリアルを1位にしましょう!』って言えば、みんな私を買ってくれるよ!きっと!」
俺は、ハピマテの言葉につい吹き出してしまった。
「なんなのー?どうしたのー?」
「いやいや、いくらネットには人が多いからって、そんな呼びかけても誰も乗ってくれないよ。そんないきなり無謀で唐突なこと・・・・・」
そこまで言ってから俺は気がついた。そうだ、あそこならやってくれるかもしれない・・・・・
俺は、すぐパソコンに向かった。そして、googleで『2ちゃんねる』と検索した。
「にちゃんねる・・・・・?」
ハピマテが俺に訊いてくる。
「そう、2ちゃんねる。ここは今、日本で一番人がいる所なんだ。そして、いろんな種類の掲示板と呼ばれるものがある。そこではそのテーマにそって、みんなが雑談をしあったりしてるんだ。そして、ここは今まで沢山の伝説を作ってきたサイトでもある・・・・・」
ぽけーっとした顔をしているハピマテをよそに、俺は続ける。
「そしてここの人たちはこういう祭りが大好きなんだ。・・・・・問題はどこの掲示板でそんなスレを立てるかなんだけど・・・・・」
画面をスクロールさせて良い掲示板を探す俺。そして、見つけた。
「そうだ、ここがあった・・・・・。人の多さ、祭り好きさでは誰にも負けてない・・・・・。人気トーナメントでも優勝する勢いなんだ・・・・・。ここしかないと思う」
俺は、画面をダブルクリックする。画面に現れた文字は――


ニュー速VIP


「にゅーそくびっぷいた?」
「そう、今、一番盛り上がっている掲示板と言ってもいい。よし、じゃあここで決定・・・・・」
俺はスレッドを作成しようとして手をとめる。
ただ「ハッピーマテリアルを1位にしましょう。みなさん買って下さい」。これじゃ、叩かれて終わりだ・・・・・
ハピマテはアニソンでここのみんなは、盛り上がってくれるとは思うけど、他に勢いを上げるための燃料が必要だ。
「スレを立てるのはちょっとまってくれ。もうちょっと作戦を練ってからにしよう」
「うん、そうしようー」
俺は、googleを新しいウインドウで出し、ハッピーマテリアルについて、そのアニメについて調べ始めた。まずは自軍のことをよく知っておかなければ、1位なんて無理だ。
調べた結果によると、CDのまとめ買いはオリコンではカウントしないようだ。
他にも、このアニメには主人公が31人もいて、その主人公達が毎月交代で歌を歌っているということも分かった。
次にでるのは、5月に放送されたバージョン。発売日は6月上旬。
これだともう発売日までの時間がない。ここは・・・・・
「1位にするのは5月度バージョンじゃないといけないの?」
するとハピマテは首を横に振って
「うぅん、別に何月度でもいいんだ。私が、1位になることが大切なんだから」
「OK。じゃあ、5月度までは時間がたりない。ここは6月度に的を絞ろうか。もちろん、5月度も買ってもらいたい。だけど、目標は『ハッピーマテリアル6月度1位』だ」
ハピマテは少し考えてから
「うん!わかった!5月度が良い所までいけば、6月度が発売されるまで評判もあがるだろうしね!」
さて、次だ・・・・・
『アニソンを1位に』だけじゃぁ、熱気の上がり方はイマイチなはず。5月度でいかにして熱気を上げて、6月度へと燃料を注ぐか、なんだ。
俺は、机をバンと叩くと立ち上がった。
「考えててもしかたない。まずは実行に移そう。まずは俺の友達に頼んでみよう」
俺は、まず頼む相手を考えた。
やっぱりここは、俺にハピマテを教えてくれたあいつだな・・・・・
そう考えると、俺は昼の校内放送でハッピーマテリアルを流した、あいつに電話をかけた。
ぷるるる・・・・・ぷるるる・・・・・・
「はい、もしもし?」
「あ、俺」
「あー、お前かー。どうした?」
俺は、ハピマテの顔をちらりと見て、言った。
「あのさ、お前が昼の放送で流したハッピーマテリアルってあったじゃん。あれさ、俺、びっくりしたんだけどオリコンで3位になってたりするのな」
「へー、それがどうした?」
「それでさ、そのCDがまた来月の始めころに出るんだけど、それが1位になったら面白いとおもわね?」
「あー、確かに面白いかもしんないけどなー・・・・・」
「じゃあさ、俺達でCD買って、1位にしてみないか?もちろん、俺も他の人に頼むしさ」
「うーん・・・・・。なんか金のかかりそうな話だな・・・・・。で、具体的にどういうことをするのさ?」
「えーっと・・・・・、まずはそのCDをたくさん買うだろ?他には・・・・・その日に発売される他のCDをなるべく買わないようにするとかー・・・・・・」
するとあいつは「あー」という声を出した。
「6月の最初ころだろ?あー、駄目駄目。俺はオレンジレンジを買うんだから。そんなハッピーマテリアルなんてアニソン買ってる余裕ねーっつーの!」
オレンジレンジ・・・・・そうだ!それだ!
俺は
「あー、ならいいや。まぁ、他の人に広めるとか、そういう事をしてくれ」
と言うとすぐに電話を切った。
オレンジレンジと同じ発売日か。そうかそうか・・・・・
ハピマテは俺のことをぽけーっとして見ている。
そして、俺は、すぐにパソコンに向かうと掲示板にスレッドを作成した。


1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/05/22(日) 01:43:19 ID: WCjl+n4M0
正直5月度は他アーティスト(糞レンジ)の関係で厳しいんよwwwwww
てわけで、6月度を買ってくれ(もちろん5月もな)
一枚700円ちょいだからさwwwww
買うときは一つの店で買わないで、分散して買ってくれ
一つの店で20枚買っても1枚にしかカウントされないらすぃんだwwwww
じゃあ、VIPPER達応援よろしくwwwwww


「これでよし・・・・・」
俺は、文章に間違いないか見直すと、書き込みボタンをクリックした。


――翌日。
ハピマテは、俺の部屋に寝かせた。
両親には、ハピマテは、友人のいとこで、重い病気を持っているので、俺の家で休養させることになった。俺の家は、そういう環境に適しているらしい、という無茶苦茶な理由で納得させた。
あの後、俺はしばらく立てたスレをリロード、リロードしていた。
VIPのみんなの反応は予想以上に良いものだった。
ハピマテが好きだから」、「オレンジレンジが嫌いだから」・・・・・
そんな理由は違えども、ハッピーマテリアルを1位にするための勇者達が集まっていった。
「うーん・・・・・、おはよー」
「ん、おはよう」
ハピマテと挨拶を交わす俺。
ハピマテは自分のことを音楽だと言っているがやはり見た目は女の子だ。
女の子と同じ部屋で2人きりで寝るとなると、やはり少し恥ずかしい所がある。
それに比べて、ハピマテは、俺と一緒に寝ることになっても特に何も思わなかったようだ。
まぁ、何はともあれ、昨日のことは夢ではなかったみたいだ。
そして、これからハピマテとの同居生活が始まっていくのだ。


「じゃぁ、いってきまーす」
「いってらっしゃーい!」
腕時計を見る。8時15分。こりゃ、また遅刻だな・・・・・
走って学校へ向かう俺。だが、遅刻などいつものことなので、気にはしていない。
ガラッ
ドアを開け、教室に入る。先生の姿は・・・・・まだない。
「セーフか・・・・・」
そうつぶやきながら席につくと、
「こらーっ!遅いよー!」
と声がした。振り向くと、クラスの学級委員が立っていた。
「ほら!3分遅刻!いっつも遅刻するんだから・・・・・・」
俺のクラスの学級委員は、成績と運動ともに十二分に出来る。ルックスも良い。
ただ、彼氏がいないのは、その気の強い性格のせいなのだろうか。
そして、『俺の好きなあの娘』。
「3分だけじゃないか・・・・・」
「3分だけ、じゃないの!3分だって遅刻は遅刻なんだからね?じゃ、今度から遅刻しないように!」
そう言うとあの娘は立ち去っていった。
好きな娘に怒られるなんてM気があるのだろうか。自覚はしていないけど。
「おう、来たな。おい、昨日の電話はなんだったんだよ」
顔をあげると、昨日電話をしたあいつがいた。
「お、おはよう」
「おはよう、じゃねーよ。昨日いきなり電話してきて『ハッピーマテリアルを1位にさせる』とか言って、すぐ切っちゃってんじゃねーか。なんだったんだよ、いったい」
なにやら少し起こっている様子だ。
「なんだったもなにも、その通りだよ。アニソンが1位になったら面白いと思わないか?」
「面白くなんかねーよ!」
バン、と机を叩くとあいつはこう続けた。
「お前、ハッピーマテリアルの発売日がオレンジレンジと同じ日だって知って俺に電話してきただろ?俺が気づかないとでも思ったのか!?どうせ、オレンジレンジが嫌いとか、俺に買わせたくないとか、裏があったんだろうが・・・・・」
「そんなんじゃねーよ」
俺はあいつの言葉の途中に言い返した。
「俺は本当に『アニソンが1位になったら面白いなー。前には3位になってるから無理じゃないんじゃないかなー』って思って、お前に頼んだだけだよ。そんなお前にCDを買わせなくてなんの得が俺にあるっていうんだよ」
「あー、うっせーうっせー!お前がそういう奴だなんて思ってなかった!もうハピマテなんて死んじまえ!」
さすがに、これには俺もカチンときた。
「ちょ、お前、ふざけんじゃねーよ!俺がいつまでも黙って頷いてると思うなよ!?」
そんな俺達を他の友人がとめる。
あいつは全然反省もしていない様子だ。
もう、あんな奴とは、餓鬼っぽくて嫌だが絶好した方がいい。直感的にそう思った。
ちょうどその時、先生が入ってきた。
そのおかげで喧嘩は一時中断したわけだが、俺達の間では、その後も妙な空気が流れていた。


「あ、ちょっとまってー!」
授業が全て終わり、家に帰ろうとした俺は、あの娘に引き止められた。
「ん、なに?」
「あ、あのさ・・・・・。朝の喧嘩どうしたの?」
俺は少し驚いた。あの娘がこんなことを訊いてくるなんて思えなかったからだ。
たしかに、学級委員ではあるが、喧嘩に首を突っ込むようなタイプじゃないはず。
「え・・・・・。そんな聞いてわかる話でもなければ、面白い話でもないけど・・・・・」
「それでもいいの。教えて」
「じゃ、じゃぁ・・・・・」
そう言うと、俺は、ハッピーマテリアルを1位にする企画のこと、あいつとの意見の食い違い、全てを話した。
「ふーん・・・・・。そんな企画があるんだー・・・・・」
「な?つまんない話だっただろ?」
そう言うと、あの娘は意外な反応を見せた。
「う、うーん・・・・・。私も一枚くらいだったら協力してあげてもいいけど・・・・・」
「えっ?」
俺は思わず声を上げてしまった。
そんな遊び事を楽しむような娘じゃないと思っていたからだ。
根っから真面目なわけでもないが、こんなどうでもいいような事をやるようには見えなかった。
「ほ、ホントに?」
「う、うん・・・・・・だって735円なんでしょ?」
俺は頷くと、
「ありがとう。まさか協力してくれるとは思わなかった」
と言った。
そして、
「じゃあ、また明日な」
と言うとその場を去り、家へと向かった。
後ろでは、あの娘が手を振っていた。


「ただいま・・・・・」
「おかえりー!」
家につくと、ハピマテが腕をパタパタしながら走ってきた。
「まってたー!ねぇ、インターネットどうなった?インターネット!」
「あー、わかったわかった。今行くから」
そう言うと俺は、階段をあがり、俺の部屋に入ると、パソコンを起動させた。
デスクトップから『Live2ch』を選び、ニュー速VIPからハッピーマテリアル1位スレに飛ぶ。
すると、驚いたことに、物凄いスピードでレスがついていく。
VIPのみんなは、祭り事が大好きだということは知っていたが、まさかここまで乗ってくれるとは思っていなかった。
今は、『全板人気トーナメント』の真っ最中だし、みんなそっちの方にかじりついているかと思ったら、違った。
「ねぇ、どうなの?」
音楽のくせにあまり機械類に詳しくないハピマテが訊いてきた。
「うん、反応はかなり良いよ。この調子なら1位もなんとかいけるかも・・・・・」
そう言いながら俺はベッドに寝っ転がった。
ふと、あいつの顔が浮かんだ。今まで親友だったあいつとこんな事で喧嘩になるとは思っていなかった。
だが、俺から謝るつもりは、これっぽっちもなかった。俺が悪いことをしたとは思っていないし、実際していない。
「ねぇ、どうしたの?ぼーっとして」
ハピマテが寝ている俺の顔をのぞきこんできた。
「いや、なんでもないよ」
・・・・・不思議だ。ハピマテと話していると、あいつと喧嘩したことなんて忘れてしまう。
――そんな不思議な力も持ってるのかな。
俺はそう思った。ハピマテは、兎に角俺の常識を覆してくれる。
ぶるるるるる
その時、俺の携帯がふるえた。どうやらメールのようだ。


今日、言ってたCDのことだけど、なんていう名前だっけ?
くだらないことでメールしてごめんね。


クラスの学級委員、あの娘からだった。
「えー、なになにー?」
ハピマテが横から液晶を覗いてくる。
「うわ、勝手に見るなよ」
「あー、女の子からメールだー!」
「おいおい・・・・・」
あきれ顔の俺をにやにやしながら見ているハピマテ
そういう人間の心は普通に分かっているのか・・・・・
俺はとりあえず返信する。


ハッピー☆マテリアルっていうCDだけど・・・・・
本当に買ってくれるの?学校でも言ったけどジャケットとか買うの恥ずかしいような物だよ?
買ってくれるんならありがたいんだけど・・・・・
いろいろバージョンがあるから、真ん中に金髪の女の子がいるジャケットのを買ってね。
それじゃ


俺は、メールアドレスはいろいろな人に教えていたものの、クラスの女の子とメールをしたことなど数えるほどしかなかったし、ましてやあの娘に返信することなど初めてだったので、なんと送って良いか分からなかった。
が、とりあえず書きたいことをできるだけ簡潔に書いて、送信した。
すぐさまメールは帰ってきた。


ありがとう。もちろん買うよ。一度言ったことは守らなきゃ。
それじゃ、明日は遅刻しないようにね!


「へー・・・・・」
ハピマテがにやにや笑いながらこっちをちらちら見てくる。
「ちょ、なんか誤解してるみたいだけどそんなんじゃないからな!」
「分かってる分かってるって」
手をひらひらさせながら言うハピマテ。その顔が絶対に分かっていないと言っている。
俺は、ハピマテに事情を説明した。
「えー!じゃあその学級委員さんも買ってくれるんだー!やったー!」
「ははは、よかったなー」
そう言っていると本当に良かったような気がしてくるから不思議だ。
よくよく考えてみると、ここで1位にさせた所で俺の人生にはなんの影響もない。
だが、実際、2ちゃんねるにスレ立てをしたり、友人にプライドを捨てて買ってくれるように頼んだり、いろいろなことをしている。正直ハイリスクだ。
しかし、そんなハイリスクな勝負をやっている俺は俺自身、何故やっているのか分かっていない。
ただ、わかっているのは、そうだ、俺はハッピーマテリアルが好きだからこんな全力でやってるんだ。
きっと、まだ出来たばかりのスレに集まってくれたみんなもそう思っているはずだ。
俺は、心の中でそう思った。
自然と顔に笑みがこぼれていた。


       (第一話から第六話まで掲載)