ハピマテがいなくなってから1ヶ月。俺は気持ちをなんとか取り戻し、今まで通りのの学校生活を送っていた。
そこへやってきた、東京への「修学旅行」という大きな行事。
そして、「あの人」からの招待。
―禁止されている聖地、秋葉原への秘密の脱走
――夜中、部屋を抜け出して真の親睦を求めての肝試し大会
―――最後に行われる、新幹線イベントでの教員がしかけた罠
ルールにしばられた、つまらない旅行を最高のシアワセに変える、計画――






サァ、シアワセノ旅ヘ・・・・・







9月。ネット界で行われた、壮大な祭りが一つの区切りをうってから一月が経った。
壮大な祭り、ハピマテ祭りである。
ハピマテスレはライブドアのしたらばに拠点を移し、紅白へむけての活動を行っていた。
俺は、毎日ハピマテスレを覗いてはいたものの、ロムばかりで書き込むことはめったになくなっていた。
また、ハピマテと会いたい。
そういう感情が、俺の中で現れては、消えた。
俺にとって、ハッピー☆マテリアルは特別な存在だった。
ある日、俺の家に現れ、自らを『音楽』だと自称し、そして自らをオリコン1位にしようと前向きな姿勢をいつでも俺に見せてくれた少女。
それが、俺の中での『ハピマテ』だ。一枚のCDではない。俺にとってもハピマテは、いつでも『人』であり、『異性』であった。
「さて、学校か・・・・・」
俺はそう呟いて立ち上がり、カバンを持って俺の通っている中学校へと向かった。


学校に到着すると、俺の机の上に一冊の冊子が置かれていた。
表紙には、こう書いてあった。
修学旅行のしおり
俺の通う中学校では9月に修学旅行がある。行き先は毎年、東京と決まっていた。
俺のような地方民にとっては東京とはいかに凄い場所なのか、都会に住んでいる人達には分からないと思う。
なにより、深夜アニメが見れる、というところが、俺の中では一番の魅力だった。
一応、ハピマテスレの創設者である俺は、今となってはどっぷりとアニメの世界へ浸っていた。
しかし、俺の住んでいる地方では、深夜アニメが地上波では一切放送されておらず、DVDを買うか、レンタルするかに頼るしかなかったのだ。
そんな所に住んでいる者としては、毎日深夜にアニメがやっている東京などの他の地方はとても魅力的に見えた。
それに東京には、なんと言っても――
「修学旅行のしおり、やっと配られたな!」
そう言って俺の考え事を途中でぶったぎったのは、小学校のころから大親友だったあいつだ
「あぁ」
俺は一言そう言ってから、しおりをぱらぱらとめくった。
持ち物表、日程表、注意事項、お小遣い帳・・・・・
めくりながら、俺は考え事の続きをする。
東京には何といっても、俺のようなものにとっての『聖地』がある。
秋葉原である。
電車男なんかのブームによって、一躍有名になり、その聖地の原住民の人たちにとっては居心地が悪くなった、ときく。
そんな場所に俺のような半端で、しかも修学旅行で訪れている者がずかずかと踏み込んでいくのは些かひきめを感じるところもあったが、それでも俺はどうしてもその場所に訪れてみたいと思っていた。
そんなことを考えながらめくっていた、修学旅行のしおりの中の一頁、一部分に俺の視線が集中した。
タイトル欄に大きく『禁則事項』と書かれているページである。
その中には「ゲーム機や漫画等を持ち込むことを禁止します」「万引きは大きな犯罪です」等のごくごく初歩の禁則がびっしりと書かれていた。おそらく、教師が職員会議で決定したことをそのページに盛り込んでいるのだろう。
そのページにある一文は、俺の意識を一瞬失わせるかのごとくオーラを放っていた。
「三日間の日程の内、都内にある秋葉原地域に侵入することを禁止します」――


「・・・・・さて、と」
その日の授業がすべて終わり、放課後。
俺は屋上に来ていた。屋上は、生徒同士が秘密の話し合いをするときによく使う場所である。そればかりか、教員も生徒に秘密で話しをするときに、よく此処を使う。
そして、俺が屋上にいるということは、当然、秘密の話をしているわけである。
その話し相手というのが、他人からは壮大な敬意と些細な疑心から『あの人』と呼ばれ、一目置かれた存在になっている人である。
隣の学級に所属しており、成績トップ、イケメン、運動神経もそれなり、という出来すぎた男であるが、内面にはオタク、VIPPER、二次元にしか興味を示さないという強烈な性格を隠している。
ハピマテ祭りが俺の残してくれた大きな幸せ、友達の一人である。
「このしおりは君も読んだのだろう。それだからこそ、僕が此処に呼び出した時、に闘争心をむき出しにして頷いてくれたのだろうと思うしね」
あの人が言った。
「此処に呼び出したのは、これの話をするためだよね?」
俺は、しおりの『禁則事項』のページの一部分を指さして言った。
「もちろん、それもある」
あの人は静かに言った。
俺は、ふとした考えが頭によぎった。
「そうか、君は俺よりも成熟した立派なオタクだもんね。アキバにくらい何度も行ったことあるだろうし、こんな禁則、あってもなくても同じだったのか・・・・・」
その考えを口に出した俺に、頭を掻きながらあの人は
「いや、実は僕も秋葉原には行ったことがないんだ」
と語りかけるように言った。
「意外だ」
俺は一言、そう言った。本当に心の底からそう思っていた。
「うん、そう思われるかもしれない。でも、僕が秋葉原に行ったことがないっていうのは本当なんだ。東京にも、2〜3度しか行ったことがないし」
俺は、一度も行ったことがないぞ。
そう言おうとしたが、やめた。今、あの人が話そうとしていることには何の関係もないことだ。
「君を呼んだのは、その通り、秋葉原に行くことを禁止された事についてだ。これは、文化祭のこともあるだろうね。秋葉原は最近、悪い意味で有名になってるし、先生方も悪影響を及ぼす場所だと思ってしまったことだろう」
『先生方』の部分を、嫌みったらしく強調して言ったあの人は、後ろを向いた。
「単刀直入に訊こう」
後ろを向いたまま、あの人が言う。
禁則事項を破る気はあるかい?」
「・・・・・」
俺はすぐには答えなかった。
文化祭のことで、俺達の認知度は0以下に下がっているだろう。俺は今、受験生だがもう推薦入試などは考えたこともない。
「それって・・・・・」
「もちろん、漫画を旅行に持っていこう、などと話しているのではない。具体的に一つの例をあげれば、そう、『秋葉原に一緒に行く気はあるか』ということだ」
・・・・・やっぱり、そうか。
俺は少し考えた。ここで罰の悪いことをすれば、内申点が下がるのは確実だろう。
ゲーム機を持っていく、程度ならバレないかもしれない。だけど、教師達のことだ。俺達が、その立入禁止の聖地に訪れることを禁止するだけではなく、見張ることも考えられる。
あの人が振り向きざまにこう言った。
「ここで秋葉原に行ってこそ、今までの僕たちだと思わないかい?」
あの人は、笑っていた。いつもの冷たい笑いではない、ただ単純に状況を楽しもうとしていたのだ。
そんな多少恐ろしい笑顔を見ているうちに俺の気持ちが動いた。
「OK、その話、乗った。」
俺が言うと、あの人は満足げな表情で
「君ならそう言ってくれると思っていたよ」
と言った。そして、カバンから一冊の冊子を取り出すと、俺に手渡した。
「これ書いてあることにどの程度賛同するかは、君の自由だ。一つだけでも構わないし、全部でももちろん良い」
俺は、その冊子の表紙を見た。
修学旅行のしおりと似たような冊子だったが、少し違った。
いつのまに、こんなものを作ったのだろう、と俺は思った。
表紙には、『裏・修学旅行のしおり』と書かれていた――





―― #1 アキハバラへ、いらっしゃい ――





修学旅行当日。新幹線の自分の座席に座って、俺は修学旅行のしおりを開いた。
一日目は東京についてから12時まで判別自主研修。午後からは国会見学となっている。
12時にお茶の水駅に集合。13時までに各自その周辺で昼食をすませ、13時15分にバスで国会議事堂へと出発する、という日程だ。
タイムスケジュールを一通り確認した俺はしおりをリュックの中へとしまい、変わりにお菓子を取り出した。
お菓子を食べようとすると、誰かに肩を叩かれる。振り返ってみると、そこに立っているのはあの人だった。
「ちょっと、いいかな?」
そう言って手招きをするあの人に連れられ、車両と車両の連結部分、新幹線から乗り降りするドアが設置してあるスペースへ向かう俺。
「今日、これからの計画を確認するよ」
黙って頷く俺。計画は教員の考えと180°違う考え方をしている。バレてしまったらせっかくの修学旅行が台無しになるだろう。
その、計画というのがなんとも俺達らしいものなのだが・・・・・
「幸運なことに集合場所のお茶の水駅は秋葉原駅の隣の駅だ。料金は130円」
あの人が話を切りだした。
「自主研修の最中、僕たちが立入禁止の区間に侵入しないよう、先生方は僕たちのGPS機能付き携帯電話を持たせるつもりでいる。なんとも用心深いことだけど。」
――GPS、Global Positioning Systemの略称で人工衛星をつかい人の居場所を正確に割り出すシステムだ。
最近は携帯電話に内蔵されているものが出回っている。便利な時代になったものだ。
「これを1班に1台持たされている限り、自主研修の最中に秋葉原にいく、などという安易な考えは通じないということになる。そこまでして先生方はそれを阻止したいのだろう」
一呼吸おいてから、あの人は笑って言った。
「そこで、僕たちが秋葉原にいく時間は、昼食をとる12時から13時までの1時間」
あの人が『裏・修学旅行のしおり』を取り出す。精密にできた"やってはいけないこと"専用の冊子である。
「自主研修の最中、お茶の水駅に立ち寄り130円の切符をあらかじめ購入しておく。時間短縮のためにね。そして12時に集合してみんながお昼ご飯を食べに行くのに紛れて電車に乗り、秋葉原まで行く。そして――」
「なんの話をしているの?」
後ろから突然話しかけられ、焦って振り向く俺。あの人のメガネの奥にある目はその人物のことをじっと見つめている。
そこに立っていたのは三学年副主任の女の先生だった。
若い先生であるがきびきびとした動き、分かり易いといわれている授業から副主任の座についたらしい。
「せっかくの修学旅行ですもの、楽しみたいわよね。・・・・・・で、なんの話をしているの?大きな声では言えないけど・・・・・」
そう言って本当に声を小さくする副主任。
「・・・・・校則を破ることを計画してるんだったら、私も協力するわよ?せっかくの修学旅行ですもの」
そう言って不適に微笑む副主任。
俺は、助かった、と思った。
教員の中に味方ができればそれに越したことはない。自分達の計画を手助けしてくれる先生は前にもいた。文化祭のときに助けてくれた、国語の先生だ。
今、俺達には教員達の動きを探る味方が必要だった。が、そんなことができて、味方についてくれる人がいるとは思っていなかった。
「それがですね――」
俺が計画を話して教員達の動きを食い止めてもらおうと話し始めたとき、あの人が俺の言葉を遮った。そして、こう言った。
「自主研修の最中に、GPS携帯を駅のホームに置きっぱなしにして、その隙に秋葉原へ行こう、という計画なんです。立入禁止区域にどうしても入りたいので」
あの人が言ったのは、デタラメな計画だった。
俺はあの人がなにをしたいのか分からなかった。せっかく味方になってくれる、と言っている副主任を、自分達側につかせるに越したことはないはずなのに。
あの人の嘘の計画をきいた副主任は満足げに
「そうなの。楽しそうね。それなら、私は他の先生方の動きを食い止める役割につこうかしら。そうすれば自主研修の最中、あなたたちも動きやすいでしょう」
「そうですね。ありがとうございます。よろしくお願いします」
あの人は冷たい目つきで副主任を見つめながら、答えた。
副主任は軽く手を振ってその場を離れる。その姿が見えなくなったのを確認すると、あの人は俺に
「君の悪い癖は人の言うことを簡単に信用してしまうところだね」
と言った。
「味方についてくれるっていってくれてるのに信用しない手はないんじゃ・・・・・」
「副主任は先生方が僕たちに差し向けたスパイにすぎないってことを理解しないと。副主任の言っていることがまずデタラメだよ。先生方のうち一人でも僕たちの計画の味方についてくれる人がいる確立は、宝くじで3億円が当たる確立よりも低いね」
あの人がきっぱりと言い放ったのを聞いて、俺はその事実を確信した。
あの人が間違ったことを言うはずがない。そんな考えが何処かに芽生えたのだ。
「この旅行中、副主任は要注意人物だね。あの先生に本当のことは何一つとして話してはいけない。わかった?」
あの人の言葉に俺は無言で頷いた。
「それじゃあ、残りの移動時間を有意義に過ごそうじゃないか。せっかくの新幹線なんだからね」
そう言って笑うあの人は、本当に状況を楽しんでいるように見えた。


そして始まった自主研修。俺の班は浅草や美術館などを廻った。
もちろん途中でお茶の水駅に立ち寄り、130円の片道切符を買うのも忘れなかった。
全ては秋葉原のためだ。最近観光地化しているという秋葉原だが、俺の興味をかき立てるには十分すぎる場所だった。
そして、11時45分。再度お茶の水駅に時間通りに集合した俺達の班。
あの人の班はもうすでに到着していた。50分になると、他の班も全てそろい、先生達からの簡単な話を聞き、GPS携帯を回収されてから昼食となった。
全員が解散し、駅近くの食事処へと向かう。が、俺とあの人はもちろん違った。
トイレに寄るふりをして、駅の改札をあらかじめ買っておいた切符を使ってくぐる。
無事、秋葉原駅行きの電車の乗った俺とあの人。電車の席は比較的空いていた。
「先生方は僕が副主任に言ったことを真に受けて、自主研修の最中は交代で秋葉原駅を見張っていたみたいだよ。やっぱり副主任はスパイだったみたいだね」
電車の中で、あの人が言う。
「・・・・・なんでそんなこと分かるんだ?実際に行ったわけじゃないんだろ?」
と、俺は訪ねたが、あの人はやれやれというように首を振って、
「携帯から2ちゃんにスレを立てたんだ。『秋葉に背広を着て修学旅行のしおりを持った教師らしき人がいる。修学旅行で秋葉原を訪れるような時代になったのか』って。そうしたら案の定、『駅で俺も見かけた』ってレスがたくさん付いたよ」
・・・・・恐ろしい人だ。個人の携帯電話は持ってきてはいけないはずだけど・・・・・
「持ってきていけないものを持ってくるのが、修学旅行の醍醐味だと思わないかい?」
・・・・・恐れ入りました。
「ほら、着いたよ」
というあの人の言葉で俺は立ち上がった。そして、電車を降りる。
聖地秋葉原に初上陸した俺は、なんとなく、なんとなくだけど嬉しい気持ちになった。
先生達の目を欺けた、ということ。そして、憧れていた秋葉原についに来たのだ、という興奮。そんなものが交差し、俺は胸を躍らせた。


その聖地は予想以上だった。
駅前でメイドさんがチラシを配っているし、駅に備え付けてある看板が全て所謂萌え系のものだ。
俺の住んでいる街にも小さいながらアニメイトゲーマーズ等の専門店がある。
が、それらは人目を忍んだ路地裏のような場所に店を出していた。
しかし、ここは違う。でかでかと『ゲーマーズ、ここから徒歩3分』の看板が出ているのを始めとして、店頭に設置してあるテレビからはアニソンの宣伝PVが流れているし、ギャルゲーの宣伝看板なんかまでもが、ビルの壁に設置してある。
電車男』が流行り、秋葉原もかなり有名になったと思われていたが、テレビではこのようなアンダーグラウンドな世界は完全に隠して放映されていたことに気づいた。
俺が特番やドラマなんかで見てきた、『聖地秋葉原』は全てマスコミに刷り込まれた幻想にすぎなかった。テレビで見ていたものよりも、凄い。
意外にもここに初上陸、というあの人も同意見のようだった。
さて、時間は1時間しかない。コンビニで買って置いたおにぎりを昼食代わりにぱくついた俺とあの人は、さっそくその街の探索を始めた――


――13時。
俺とあの人は地元では売っていない代物や話題のおでん缶なんかをごっそり購入し、お茶の水駅にこっそりと戻ってきた。
先生達もちょうど食事から帰ってきたところのようで、俺達が駅の改札から出てきたところは目撃されていないようだった。大成功だ。
先生達が世間話で盛り上がっている影で、あの人は買ったおでん缶を開け、その場で食べた。そして、食べ終わったその缶を近くにあった水道で綺麗に洗うと、再び鞄にしまった。
「今、食べちゃうんだ」
俺が訊くと、
「今食べないといけない事情があるんでね」
と答えたあの人は笑って俺を見る。その不適な笑みが何を意味しているのか、俺にはさっぱり分からなかった。



夜。時計の針が11時50分を指している。
古い旅館のの16人部屋という大部屋で寝ていた俺はふすまが開く音で目を覚ました。
そこに気配を消したように立っていたのは、あの人。
あの人は囁くように俺にこう言った。
「就寝時間は10時だけど、夜はこれからが本番だよ」





「就寝時間は10時だけど、夜はこれからが本番だよ」
そう言ったあの人に連れられ、俺はこっそり部屋を抜け出した。
散らかっている荷物に足をぶつけ、落ちていた『裏・修学旅行のしおり』を踏み危うく足を滑らせそうになる俺。
就寝時間を過ぎてから部屋を出ることは許されていないので、慎重に、慎重に・・・・・
足音を忍ばせて歩いているうちに、人影が見えてきた。




―― #2 Ghost Ghost...――




電気がついていないまっ暗な廊下に目が慣れてきた俺は、それが誰かを確認することがdけいた。
あいつ、それに花鳥風月の連中が2人。あとは、同じクラスの友人が2人。隣のクラスの男子生徒が2人。
「それじゃあ、修学旅行の夜恒例の"肝試し"を始めようか」
耳をすまさないと聞こえないような小さい声で、あの人が言った。
肝試し――
まさに修学旅行の恒例行事と言ってもいい。
最近の修学旅行は設備の整ったホテルに泊まる学校も多いらしいが、やはり肝試しをするにはこんな古い旅館がしっくりくるというものだろう。
「まずは、僕のこんな提案に集まってくれた君達8人に感謝したい。ペアは元々組んで貰っていると思う。ペア同士で手を繋いでほしい。それでは、ルールを説明しよう。」
同じクラスの友人一人と手を繋ぐ俺。
あいつも他の友人と、花鳥風月の2人、隣のクラスの人たち2人でペアが4組できた。
「2人1組で1チーム。それが4チーム参加してこの肝試しを行う。それぞれのチームに1ルートずつ、僕がルートを決めてある。難易度は全て同じにしてあるから、安心したまえ。ルートについては、この紙を見て欲しい」
あの人は、プリントアウトされた小さな紙を1人1枚ずつ手渡した資料参照)
「担当経路は、1班が経路1、2班が経路2、というようになっている。班番号はあらかじめ決めて置いたはずだ」
俺の班は、1班。たしかあいつの班は4班、花鳥風月の奴らが3班だったはずだ。
「各班には旅館内にあらかじめ置いてある"お札"を回収し、このスタート地点まで戻ってきて貰う。経路はさっきの紙に書いてあるものを使わなければ、失格とする。お札は名詞サイズの紙で、それぞれ『1班』『2班』等と書いてある。ちなみにお札がある場所の目安を紙に記して置いたので見てくれたまえ」
たしかに、それぞれの経路に丸印があり、凡例には『●…おふだ』と書いてある。
「おい」
と手を挙げたあいつにあの人は
「何かな?」
「これ、窓の外に出る経路があるけど、これは・・・・・」
「間違いではないよ。その通り、窓から外に出て、外の庭を歩いて貰う。足が汚れるのは我慢してほしい。それくらいのゲーム性はないとね」
「成る程」
納得したあいつを見て、あの人は満足げに頷く。
「このゲーム、飽くまでゴールが目的だが、一番初めにお札を回収、スタート地点まで戻ってきたチームには――」
あの人がポケットから紙を取り出す。
「永遠の名誉と、全国CDショップで使えるCD券5000円分を1人1枚贈呈しよう」
ほぉ、と漏れるため息。
「ちなみに先生達に見つかったチームは自動敗退。そうそう、それぞれの場所には罠が仕掛けてあるから、気を付けてね」
不適に笑うあの人。そして、こう続ける。
「それと、この旅館に伝わる怪談、覚えてるよね?」
旅館についた時、初老の女将さんが話してくれた話だ。
たしか、掛け軸の女の人の口から血が流れるとか、人形の髪の毛が伸びるとか――
「ルール説明は以上だ。幽霊に食べられないように気を付けてね。それじゃあ、肝試し開始。」
それぞれのチームがそれぞれの道へ歩き出す。
俺のチームも出発しようとすると、俺の肩を叩いたあの人が俺とチームメイトの友人に
「お札を探し疲れたら、ジュースでも飲んで休憩するといいよ」
と耳打ちした。
何を意味しているのか分からなかった俺達は首を傾げながら、出発した。


「さて、と・・・・・」
全員の出発を見送った僕は、最初の班が戻ってくるまで自分の部屋に戻ることにする。
このゲーム、1経路につきクリアするのに最低15分はかかる。
いつまでも廊下をうろつくのは危険きわまりない。主催者は影で選手を操るものだ。
この時間、先生達が見回りをする確立はきわめて低い。するとすれば、深夜1時ころ。ちょうどそのころが、生徒達が起き出す時間だからだ。
――と、後ろから足音。
とっさに違う部屋に逃げ込む僕。
・・・・・足音が遠ざかっていく。こっそりと見ると、どうやら先生の見回りだったようだ。
「なんだぁ?」
その部屋で寝ていた奴らが目を覚ましてしまったようだ。
「起こしてごめん」
僕はそう言うと、すぐにその部屋を出る。
おかしい。この時間、先生達が見回りをするとは思えない。しかも心なしか、僕たちが集合場所にしていた場所にピンポイントに懐中電灯をあて、何かを探しているように見えた。
計画はバレるはずがない。と、なると、今のは偶然なのだろうか?
僕は先生方の動きを不審に思いながらも、自分の部屋へと息を殺しながら戻った。


「さて、俺達2班は一番簡単そうなコースだ」
このゲームに参加したのは、ただ単に修学旅行を楽しみたいという意志からだった俺。
だが、目的は商品のCD券へと変わりつつあった。
生徒主催、教師には内緒の企画にしては賞品が豪華だ。
そろそろと二つ目の角を曲がったところで、床になにかが落ちているのを見つけた。暗闇と少々の恐怖のせいか、目の前が青白く見える。
「これは・・・・・」
拾い上げると、そこには二班と達筆な字で書かれていた。
「よし、見つけた。なんだ、簡単じゃないか」
俺はもう一人のチームメイトに小声で言う。そいつはにやっとして頷いた。
が、すぐにその顔が真っ青になった。俺の後ろにある何かを指さしている。
「ん?どうしたんだよ・・・・・」
そう言って振り向いた俺はぎょっとした。
後ろにあった着物の女の人が書かれた掛け軸。旅館に到着した時には、ただそれだけの絵だったはずだ。
だが、今は違う。その口からは青白く光る何かが垂れていた。
「こ、これってもしかして、あ、あの、女将さんが言ってた・・・・・・」
そこまで言って目をそらした俺だが、その下に置いてある人形を見てさらに怯えることになってしまう。
その人形の髪の毛は、異常なまでに伸びていた。おかっぱ頭の日本人形だったはずなのに、今、俺の目の前にあるものは、身体のほとんどが髪の毛で見えないくらいまでの人形になっているのだ。
「ね、寝ぼけてる、んじゃ、ない、よな・・・・・?」
そこまでが限界だった。俺達は後ずさりしてその場を離れようとした。が、何かに躓いて転んでしまう。
ドシーン!
と音をたて、見事にひっくりかえった俺達は、数分後に駆けつけてきた先生達に見つかって、ゲームオーバーになってしまったのである。


――4班。
――あの人、いったい何者なんだ?昼食の時は、あいつとこそこそやってたけど。
少し前にあったハピマテ祭りに親友の誘いで参加した俺。最初のころは揉めてしまったのだが、結局2桁の数のCDを買ってしまった。
その親友が、修学旅行の自主研修で何かやらかしているようだ。まぁ、教師が気づいていないみたいだから一向に構わないのだけれど。
俺は文化祭でバンドを一緒に組んだりして、あの人のことはそれなりに知っているつもりだ。
あの人が、簡単なゲームを始めるはずがない。
俺は一緒にチームを組んでいる友達にその事を伝え、慎重に慎重に札を探すことにする。
面白くて盛り上がることが大好きな俺だが、このゲームは静かすぎるぞ。
廊下には、ござのようなものが敷いてあったりした。俺はその上を歩く時も、慎重に、と自分に言い聞かせ、それをいちいちめくってみたりしていた。
案の定、その下にはブーブークッションや、滑って転ぶように仕掛けてあるビー玉などがしかけてあった。それらを順調にクリアする俺達。
そして、先生の部屋の前の廊下にお札が落ちていた。
周りを気にしながらそれを披露。札には四班、と筆で書かれていた。
――これか・・・・・
先生の部屋の前なので迂闊に声を出すこともできない。だが、俺は思った。簡単すぎる、と。
たしかにお札はもう一枚残っている。だが、こんなものなのだろうか。あの人のゲームが?
そう思ってお札をひっくり返すとそこには一枚の付箋が貼ってあった。
何かと思って見ると、そこには細いボールペンのようなもので
  "図書館探検部の歌 2番2フレーズ目"
――これが、なんなんだろう?
俺はそのCDを持っている。歌詞も知っている。だが、俺は何を意味しているのか、まったく分からなかった。あの人が間違ってつけてしまったのだろうか?
不思議に思いながらもお札とその付箋をポケットにしまい、元きた道を少し早足で引き返し始める。
俺達の班は、取る札がもう一枚残っているのだ。


――3班。
俺のチームのもう一人の友達とは仲良しで、文化祭では『花鳥風月』という名前でバンドを組んだ。だけど、このゲームの主催者であるあの人が所属したバンドに負けてしまった。
まぁ、今はそんなことはいい。ゲームに集中しよう。
俺達は順調に進み、窓から外に抜け出す一歩手前まできていた。
外はコンクリートになっており、足に泥がつくようなことはないが、それでも少しはばかられる。
しょうがない、と思って窓をそっと開けると、チームメイトが俺の肩を叩いた。
俺が振り向くと、そいつは側にあった二階へと向かう階段の方を指さしている。
目のいい俺は、目を細めることもなくその上を見た。階段を上った先に、白い紙が貼ってあるのが見える。そこには三班、と太い字で書かれているようだった。
「ここを上らなきゃいけないのか・・・・・」
俺は呟いた。そいつも声を潜めて、こう言う。
「どうする?・・・・・二階では女子が寝てるんだぜ?」
そう、一階は男子、二階は女子、と割り振られており、当然ながら男子が二階に上がることは、厳禁とされている。
今は夜。女子も外を歩いていることはないだろう。が、必ずしもいない、とも言い切れない。
階段近くの廊下を、女子が歩いていたら俺達は色々な意味でアウトになってしまう。
「こりゃ運ゲーだな・・・・・。もう、やってみようぜ。他のチームには、負けたくない」
俺の本心だった。チームメイトの奴も頷いてくれた。流石、話が分かる。
そーっと、そーっと階段を上る。物音を立てないように。いつかテレビで見た忍者の歩き方を真似してみたりする。
そして、いよいよ上に到達しようとしていた。やった、そう思った。
が、
「・・・・・なにしてるの?」
俺はびくっとして、顔をあげると、そこにはパジャマを着た女子が2人立っていた。
隣のクラスの委員長。もう一人は俺のクラスの子だ。
二人とも、俺達『花鳥風月』を負かしたバンド、『MATERIALS』のメンバーだったはずだ。
「なにしてるの?」
委員長が、もう一度訪ねた。その目は不審者を見る目つきだ。その後ろにおどおどともう一人の子が隠れている。
「・・・・・見逃してくれないか?」
渾身の願いだった。だが、委員長は
「嫌よ、この変態。」
とその頼みを断る。
「いや、これには海よりも深い訳があるんだって――。そうだ、そこに貼って札取ってくれ。そしたすぐに戻るから――」
「階段の下に落としてほしいの?」
言葉から殺気を感じる。これはまずい。
が、その後ろにいた子が、ふと気が付いたように
「そのお札、私知ってる――」
と囁いた。
「・・・・・え?」
委員長の疑問符に、
「昼間、私のクラスの、あの人に『このお札を二階へ向かう階段のところにセロハンテープで貼って置いてくれないかな?』って言われて、それで私が貼り付けたんだけど――」
流石のあの人でも女子の階に侵入することはできなかったらしい。
「こ、このお札なんなの?」
そう問われた俺は、ゲームの大まかな内容を説明し、その後に
「――そういうわけで、そのお札を取ろうとここに来たんだ。嫌らしい目的じゃないって」
と弁解の言葉を付け加える。
「・・・・・」
委員長は無言のまま、そのお札を引っ剥がすと俺にお札を手渡してくれた。
「ありがとう、恩に着るよ」
俺はそう言う。
「ごめんなさい、私、変なところにお札貼っちゃったみたいで・・・・・」
と謝られるが、
「いいんだよ。ゲームだから、難しい方が面白い」
と答える。こういう受け答えは慣れだと思う。
そして、階段を降りようとした俺達に委員長は手を腰にあてながら
「あんた達のこと完全に信用したわけじゃないけど、まぁ、今回は許してあげる」
と言い、心なしか顔を赤くしていたもう一人の子を引き連れてさっさと自分の部屋へ戻っていった。
階段を降りた俺は、いそいで窓の外に出る。思わぬロスタイムを取られてしまった。
旅館の外を歩く俺達。もう一人のチームメイトが、唐突に
「まいったな・・・・・、あの委員長に見つかっちまったか・・・・・」
とつぶやき、頭をぽりぽりと掻く。その顔は月明かりだけが照らす暗闇の中でも分かるくらい赤い。
「お前、もしかしてあの委員長に惚れてんのか?・・・・・もう彼氏持ちだぞ?」
俺がそう尋ねるとそいつは
「知ってるよ。でも、まぁ、何も訊かないでくれよ」
とだけ言って、黙ってしまった。
そういえば、委員長達に見つかったとき、こいつ、何も喋らなかったっけ。
修学旅行の恒例行事といえば、"好きな人晒し大会"か・・・・・
俺はそう思い、苦笑すると、その先を急いだ。


――1班。
――あいつや、花鳥風月の連中はどこまで進んだんだろうか。
俺はそう思いつつも、旅館の入り口からそっと外に出た。ペースはなかなか順調だ。
地図によると旅館の外にお札はあるらしい。
外は静かだった。しかし、月明かりもあり外においてある自動販売機のライトもテラされているのでまっ暗というわけではない。お札は探しやすいはずだった。
――が、お札は見つからなかった。
木の陰などを探すが、どこにもない。そんなに難しい場所に隠してあるはずはないのに・・・・・
俺はそう思いながら焦った。一緒のチームの友達も必死で探していた。
あまり長い間外にいるのはよくない。見つかってしまう可能性もある。
――と、そこで俺は思いだした。
『お札を探し疲れたら、ジュースでも飲んで休憩するといいよ』と、いうあの人の言葉。
俺ははっとして、自動販売機の取り出し口に手を突っ込んだ。
案の定、その中には何かの缶が入っていた。取り出してみると、それはおでん缶
ただし、中身は入っておらず、代わりに一枚の紙が入っている。
そこには一班と達筆な毛筆で書かれていた。
昼間にあの人がおでん缶を食べ、中身を洗っていたのはこのためだったのか。
俺はそう思ってから、友達にお札をみせ、地図通りのルートでスタート地点に戻ろうとした。
地図にある窓から旅館内に入ろうとすると、懐中電灯の光が見えた。
いそいで身体をかくし、そーっと見てみると、2班の連中が先生に見つかって叱られていた。
そして、先生達がいなくなったのを確認すると、俺達は窓から中へと侵入した。
2班の連中の話を聞いていると『掛け軸から血が』『髪の毛が伸びた』なんていう言葉が聞かれた。
俺は興味本位で友達を引き連れ、旅館についた時に女将さんが言っていた『口から血の流れる掛け軸』が置いてある場所まで行ってみた。
そして、驚いた。たしかに掛け軸の女性の口から青白い血が流れている・・・・・
さらには、髪の毛の伸びる人形、という現象も実際に起こっているのである。
――あれ?
俺はその場をじっとみて、すぐにひらめいた。
少し怯えている様子の友達に、俺は笑って小声で話し始めた。
「これだよ」
廊下の床に目立たないように細い蛍光灯がある。
ただの蛍光灯ではない。青白く、ただし、あまり目立たなく光っている。
「ブラックライト、ブラックライトブルー蛍光ランプだよ。ブラックライトには蛍光物質を光らせる性質があるんだ。きっと、この掛け軸には蛍光塗料で流れる血が描かれていたんだと思う。それで普段は見えないけど、ブラックライトを当てると見えるんだ」
そのブラックライトを調べる俺。どうやら今日取り付けられたようだ。簡易取り付け式になっている。
「多分、あの人がしかけた罠だと思う。きっとこの人形の方も何かトリックがあるんだよ」
俺の解説に関心したような友達は
「なるほど〜」
と頷いた。
「それじゃあ、先を急ごう」
俺はそう言って、スタート地点を目指し、そーっと歩き出した。


――4班。
――何処にもない・・・・・
二枚目のお札を探していた俺だったが、なかなか見つからない。
おかしいとは思っていたんだ。二枚目のお札がある、と地図に記された場所まで来るのに、罠を踏むことがなかった。
そして、ここまできて行き詰まってしまったのである。
そこにあるのは、古びた黒電話だけ。もちろんその電話や台の下も見てみたが、何もなかった。
あまり物音を立てることができない。なにせ、ここは先生の部屋、しかもその扉の目の前なのだから。
――と、するとやっぱり・・・・・
俺はさっきの付箋をポケットから取り出した。
  "図書館探検部の歌 2番2フレーズ目"
やはり、これがヒントなのだろう。
脳内で図書館探検部の歌を再生する俺。2番っていうと、たしか――
そこまで考えて、俺はひらめいた。思わず「分かった!」と叫ぶところだった。
俺は黒電話の方へ歩く。「そこはもう見ただろ」と言いたげなチームメイトの視線を避け、その電話の下においてある、電話帳と取り出した。
電話帳の裏側も勿論調べた。だけど、その電話帳の中身までは調べていなかった。
パラパラとめくると、やはり、そこに二枚目のお札が隠されていた。
"図書館探検部の歌 2番2フレーズ目"、"細い栞を挟んで"か。たしかにお札はしおりのように電話帳に挟んであったわけである。手の込んだことをやってくれるじゃないか。
俺はそのお札を持って、早歩きでスタート地点に戻った――


――1班。
急いで戻ってきた俺。
スタート地点には、あの人が静かに立っていた。
無言でお札をあの人に見せる俺。
だが、あの人は笑って、こう囁いた。
「・・・・・惜しかったね」
陰の方から4班のあいつ達がいた。
「タッチの差だったよ。でも、1位は4班だ」
それから1〜2分後、3班の花鳥風月の連中も到着。既に着いていた俺達を見て、がっくりと肩を落とした。
「2班は先生方に見つかってしまったようだ。4班中3班生存か。難易度からしてかなり良い結果だよ。おめでとう。お化けに食べられなかったんだね」
そう言って無邪気に笑うあの人。
俺達6人はお互いに握手をしてゲーム終了。あいつ達の班には賞品のCD券が配布された。
そして解散。各々の部屋へと戻っていく。
部屋に戻ろうとするあの人を引き止め、俺は血が流れる掛け軸についての謎解きを披露した。
そして、
「あの髪が伸びた人形も仕掛けてあったんでしょ?どうやったの?」
と尋ねる。あの人形だけはどうしてもトリックが分からなかった。
が、あの人は予想外の反応をした。
「え?僕がしかけたのは掛け軸だけだよ。・・・・・いや、本当に」
疑いの目で見る俺の視線に気づいたのか、最後に
「嘘じゃないって。僕もそこまで人が悪くないよ」
と付け加える。この様子、どうやら本当に何もしらないらしい。
「じゃ、じゃああの人形は――」





「学級委員、点呼をしろ!」
先生の声が新幹線内で響く。あの娘が、通路を歩いて人数を確認する。
修学旅行も終わり、今は新幹線に乗って地元に帰ろうとしているところだ。
思えば、長い旅行だった。あの人の計画に付き合っていたから、大分疲れた感じがする。
けど、楽しかったことは確かだ。あの人の計画がなければ、この楽しみも半減していたかもしれない。
新幹線の座席についているクラスメイト達は疲れ切っている様子だった。今にも寝そうな友達もいる。
点呼が終わり、新幹線がゆっくりと動き出したのを確認し、俺は静かに座席を立つと、できるだけ何気ない様子で自分達の第6車両を出て、待ち合わせ場所の第3車両へと向かった。





―― #3 MAXやまびこ229号 第7車両戦線に異状あり ――





第3車両、正確に言うと第3車両と第4車両を繋ぐ連結部分に到着すると、そこには9人の生徒が到着していた。
その9人の中の一人、あの人が俺にA4版のプリントを手渡した。
そこの見出しには、『大伝言ゲーム大会』と書かれていた。
これが、あの人が用意した、最後の"計画"である。『裏・修学旅行のしおり』でゲーム内容は熟知していた俺だが、他の参加者には知らされていないらしく、そのプリントにはルールが事細かに記されていた。
「それでは、ルールを説明しよう」
あの人が口を開いた。俺を含め、集まっていた他の9人はあの日との方を一斉に見る。
「このゲームは僕が決めた"単語"を伝える、単純な伝言ゲームだ。"文章"ではなく飽くまで"単語"。覚えるのは簡単だ。しかし、伝えるのにゲーム性を要する。」
プリントに書いてある図を指さすあの人。
「スタート地点はこの新幹線、MAXやまびこ229号の第1車両。ゴールは第10車両とする。各クラスから3名を選出する。参加者は3クラスあるので合計9名になる」
真剣に聞く俺達。
「各車両の人物配置はこちらで決めさせて貰う。1人目が第1車両、2人目が第3車両、3人目、アンカーが第7車両で自分のクラスの人が伝えに来るのを待つ、ということとする。これの変更は不可能だ。いいね?」
数人が無言のまま頷く。
「第10車両では僕が待っている。各クラス3人目の選手のうち、一番はじめに僕まで"単語"を伝言したクラスの優勝とする。伝言方法は耳打ちをしても、メモ紙を回しても構わない。但し――」
微笑むあの人。
「単語の盗み聞きをすることを可能とする。例えばメモ回しをしている時、そのメモ用紙を他のクラスの参加者が奪って、そのままゲームを続行することも可能、ということだ。耳打ちの場合でも、よそから聞き耳をたてて、"単語"を盗み聞きし、自分のクラスの前走者が自分に伝える前に次走者に"単語"を伝えるのも可とする」
つまり、必ずしも自分のクラスの人から"単語"を聞かなくてもいいということか。
「"単語"は3クラス全てが同じ物を回すので安心するように。各々のクラスでその"単語"が違うわけではない。それではそろそろ、ゲームをスタートしようか」
そう言ってからあの人はふと思い出したように、
「そうそう」
と切り出した。
「このゲーム、伝言の途中で先生に見つかったらその時点でそのクラスはゲームオーバーだ。先生とはなるべく接触しないのが良策だと思うよ」
そしてあの人は指をパチンと鳴らした。
「それでは、ゲームスタートだ。"単語"は、第1車両の何処かに隠した。探して見つけた者からゲームスタートだ。1人目の人は第1車両へ。2人目はこのままここで待機。3人目は第7車両に向かうように!」
一斉に第一走者が第1車両へ向かった。
俺のB組の第一走者はあの娘。俺は第二走者で、第三走者はあいつ、という構成になっている。これはあの人が推薦したもので、同じクラスの友人も文句は言わなかった。
A組の参加者は三人とも花鳥風月のメンバー。おそらくこれもあの人の推薦だろう。
C組の参加者でなじみがあるのは、第三走者の彼女だけ。第一走者、第二走者は陸上部の男子であり、足が速いことを理由に選ばれたらしい。
第7車両へと向かうあいつと彼女。そして、あの人も第10車両へ向かおうとする。
あの人は俺に
「がんばれ。期待してるよ」
と言うと肩を叩いた。
俺は
「このゲーム、必ず成功させないといけないんだ」
とだけ答える。あの人は
「そう・・・・・」
と言うと第3車両を後にした。


B組で委員長をやっている私だけど、このゲームに参加したのはただ、中学校生活の思いでを作りたい、という理由からだった。
規則にしばられてばかりの旅行ではつまらない。新幹線内で他の客に迷惑をかけるようなゲームは禁止されているけど、あえてそれを破るのが楽しい。そんな年頃なのだろう。
さて、第一走者の私は先頭車両にある"単語"を探さないと。
A組の花鳥風月、C組の陸上部男子よりもさきに見つける必要がある。
――あの人のことだ、最初は単純な場所に隠してあるだろう
私はそう考えた。
客席の下とか、旅行客の荷物とか、そんな場所にはいくらあの人でも隠せない。下手手すれば新幹線の利用客から私達の先生宛に伝達がまわってしまう。
他の利用客が見ても迷惑に思わず見逃してしまうような場所――
私はそう思って探す。そして、見つけた。
第一車両の隅の方にぽつんとある公衆電話。そのドアを開けたところに名刺サイズの紙が貼ってある。
そういえば一日目の夜はこんな紙のせいで大変だったっけ。
旅行のことを思い出し、苦笑しながら私は、そこに書いてある四文字の単語をしっかりと覚え、第3車両へと急ぐ。
他のクラスの第一走者も私の動きに気づいたようで、私がいた周辺を重点的に探し始める。
このままだと時間の問題だ。それに、問題はどうやって他のクラスの第二走者にバレないように回すか、だ。
そして私は一つのアイディアを思いついた。成功するかどうかは微妙だし、少々気が引けるが、勝つためだ。しょうがない。私はポケットからメモ用紙を取り出すと、そこにペンを滑らせた――


第3車両で待っていた俺は、A組の花鳥風月の連中が別れ際に話していたことを思い出していた。
――一番初めに戻ってきた第一走者がA組でなければ、そいつからどんな手段を使ってでも、"単語"を盗め。
花鳥風月の奴らは、だれからも聞こえるようなひそひそ話でそう言っていた。
初めにあの娘が戻ってきてしまったら、もしかしてその場で突き飛ばしてでも"単語"を盗む気かもしれない。
あの娘だって女の子だ。男子を相手にしたら、それを防ぐことは叶わないだろう。
そんな俺の心配をよそに、一番初めに戻ってきたのは、あの娘だった。
A組の第二走者は、気のせいかもしれないが少しばつの悪いような顔をした。
あの娘は俺の肩をつかんで第3車両のはじの方へと引っ張った。
A組の第二走者も何気ない様子で近づいてくる。この距離で耳打ちをしたら盗み聞きされるだろうし、メモ渡しでも奪い取られてしまうかもしれない。俺は腕力に自信はない。
が、あの娘は無言のまま俺の方を向くと、信じられない行動に出た。
あの娘は制服のスカートの裾を持つと、自分でそれをめくり上げた。
俺は一瞬にして仰天した。自分の顔がみるみる赤くなるのが分かる。
思わず目をそらした俺だが、あの娘に睨まれ恐る恐る目線を下におろすと、あの娘のスカートの裏には、一枚のメモ用紙が貼ってあった。そして、(当たり前かもしれないが)あの娘はスカートの下に学校指定のハーフパンツを履いていた。
そこには、四文字の単語が書いてある。これが、ゲームの"単語"か?
あの娘の後ろを見ると、他のクラスの第二走者も思わず目をそらしてしまったようだ。
なるほど、これがあの娘なりの盗み見られれない伝達方法ってわけか。でも、これは流石にどうかと思うぞ。
俺がチラチラとあの娘の様子を凝視していると、あの娘はさっさとスカートを元に戻し、パッパと裾を叩くと、
「ちょっと、いつまで見てるの?早く次の車両に行きなさい!」
と言った。俺ははっとして
「あ、あぁ、うん」
と言って、歩き出した。あの状況で男子にそんなことを言うのは一種の拷問じゃないのか?あの人みたいな奴だったら、何も言わないかもしれないが。
頭の片隅であれこれ妄想をして性欲をもてあまし・・・・・いや、顔を赤らめつつ、第4車両、第5車両と早歩きで通過。
全力疾走をしてしまうと、他の乗客にみつかり先生へ伝達、そして俺達のクラスがゲームオーバーになってしまいかねない。


第3車両で単語を伝達した私は、ふぅ、とため息をついた。
とんだ方法で伝えたものだ。自分でもそう思う。
周りに他の乗客がまばらにしかおらず、全員がそっぽを向いていたことがせめてもの救いかもしれない。しかし、これが『勝つ』ということだ。
顔を赤くし、私の方をちらちら見てくるA組の花鳥風月の一員を軽く睨むと、私は壁にもたれかかった。
1〜2分すると、A組、C組の第一走者がやってきた。二人とも"単語"を発見したらしい。
それぞれが第二走者に伝えると、第二走者はほぼ同時に走り出した。大分ハイペースだ。
――そんなに急いだら、見つかるでしょうに・・・・・
私は心の中でそう呟くと、再びため息をついた。


――大丈夫、まだ間に合う。
A組の第二走者である俺はできるだけ急いで走っていた。
隣のクラスの委員長の行動には肝を潰した。そこで"単語"を盗み見られなかったのは一生の不覚である。
B組の第二走者は走っていなかった。時折乗客にぶつかりそうになるがしょうがない。
――と、誰かにぶつかってしまった。
俺は尻餅をつきながら、
「すみません」
と誤り、立ち上がってからその相手の顔を見てぎょっとした。
俺のクラスの担任だった。
担任は
「なに走ってるんだ?良からぬ事をやっていたのではあるまいな・・・・・」
と言ってにやっと笑うと、
「さぁ、座席へ戻るぞ」
と俺を引っ張った。
――先生に見つかったらゲームオーバー。・・・・・マジかよ。
先生をうまくかわしたC組の第二走者を横目で見ながら、俺は頭を抱えた。


第10車両へ向かい、ゴールする者を待とうとしていた僕。
途中で通り過ぎた第7車両に些かの不審感を覚えた。
――先生が多すぎる。
第7車両は僕たちの学校が貸し切っているわけではない、一般車両だ。
それなのに、何故こんなに先生が多いんだ?
帰りの新幹線では先生達も自分の席で読書かなにかをするものだろう、と予想していた僕は意表を突かれた。
第7車両はアンカーが第二走者を待つ場所と定められている。各クラスのアンカーも第7車両に到着したがかなりとまどった様子だった。
先生に見つかったらアウト、というルールがあるからだ。この状態で先生に見つからずに伝言、というのはかなり厳しいのではないだろうか。
見つかったら、というのは勿論姿を見られたら、という意味ではなく、話しかけれられたり、ゲームの存在を感づかれたりした場合だ。
そうは言っても、この状況でメモを渡したり、耳打ちしたりしたら、先生に感づかれるのは必至・・・・・
様子を見ていると、先生達はきょろきょろ周りをみて、見張りをしているように見える。
だが、何故だ?ゲームの情報が漏れたのか?いや、そんなはずはない。このゲームのルールは始まる直前まで他人には黙っていたはずだ。先生にチクれる余裕などない。
だったらどうして――
そこまで考えて、僕の脳裏にひらめくものがあった。
――もしかして・・・・・
そこまで考えて、僕は第10車両へと向かう、という自分の使命を思い出し、先を急いだ。
その途中、第7車両で見張り(のような行動)をしていた学年主任の先生に、不敵に微笑まれた。
なぜ、学年主任の先生が僕のことを止めないのか。それが、もう僕には分かっていた。


第6車両をトップで通過しようとした俺に、同じB組の友達が
「第7車両に先生達が行ったぞ。気を付けろ」
という情報をくれた。
俺は無言のまま頷く。やっぱり駄目か。これは、まずい。
しかし、俺は、アンカーのあいつに"単語"を伝えなければならない。俺の責任でもある。
意を決して第7車両のドアを開けた。
そこには、あいつ、彼女、花鳥風月のメンバー、そして、数人の先生がいた。
乗客は一人もいない。空の座席が並んでいた。
俺は、手に握った"単語"書いてあるメモを握りしめた。
あいつにメモを渡せない。俺が第7車両に入った瞬間、あいつへのマークが厳しくなった。
C組の奴がもうすぐ来てしまう。C組の第二走者が入ってきたら、それと同時に彼女へのマークが厳しくなることを、俺は知っていた。
先生達は俺の方をみてにやりと笑った。あいつはその後ろで困ったような表情を見せる。
俺はあいつの方に駆け寄った。先生達は、黙ったままだ。
そして、俺は、言った。
「何をやっているんですか?先生。」
あいつは驚く。あいつだけじゃない、彼女も、他の先生も、話しかけられた副主任の先生でさえ驚きを隠せない様子だった。
「なにって・・・・・」
そこで副主任は言葉を詰まらせる。俺は、それを見て見下したような笑いを浮かべると、今度はあいつに向かって
「ほら、座席に戻ろうぜ」
と言った。あいつはぽかーんと口を開けるが、少し、少しだけ考えて、頷くと
「OK」
と言って、俺についてきた。
俺は唖然としている彼女の横を通り過ぎ、第6車両の自分の座席へと戻る。
俺は、自分でゲームオーバーを選んだ。B組、ゲームオーバー。


C組のアンカーであった私は、彼の行動に驚いた。
B組の第二走者だった彼は、自ら先生に話しかけ、ゲームオーバーを選んだ。
何故か。私にはいくら考えても分からない。
ただその状況を見守ることしかできなかった。
彼は負けず嫌いだ。いくら先生のマークが厳しいからって、ゲームを自分から放棄するような人ではない。それは、私が誰よりも知っているつもりでいたことだった。
彼はB組のアンカーである彼の親友を引き連れて、自分の車両へと戻ろうとした。
そして、私の隣を通り過ぎようとした時――
彼は、私の手をぎゅっと握った。
久しぶりに彼に手を握られたような気がする。私は、突然の出来事に驚き、顔を赤らめた。
彼がその手を離すと、私の手には一枚のメモが握られていた。
彼は、誰にも、私にも分からないようにメモを私に手渡したのだ。
先生に見られないようにそのメモを開くと、そこには四文字の単語が書かれていた。
違うクラスの彼が私に"単語"を教えたのだ。何故なのか、私には分からなかった。
――でも、彼は意味もなくそんなことをする人じゃない。
私は、第10車両へと歩き出した。先生に声を掛けられそうになったが、それより先に
「すみません、ちょっと・・・・・お手洗いに・・・・・」
と嘘をついた。
第8車両への扉をあけ、第10車両へと走る。これより先に先生はいないと思ったからだ。
そして、第10車両にいたあの人に、私はその四文字の"単語"を伝えた。
「シアワセ」
と。C組、ゲームクリア――



第6車両にあいつを引き連れ戻った俺は、自分の座席に無言でついた。
――これでこのゲームが成功すれば、うん、良かったんだ。
座った俺に、あいつは
「困った奴だぜ。友達より女かよ」
と話しかけてきた。
――まいったな
俺は、弁解の言葉を発しようと、口をあけたが、その必要はなかったようだ。
「・・・・・なーんてな」
あいつがそう言って笑った。
「お前のことだ、考えがあってやったんだろ?ま、あの時の俺に伝言しろっつーのも無理な話だったからな。気にするんじゃねーぞ」
そのあいつの言葉を聞いて、俺は心の底からほっとした。
「悪い。お前の言う通り、ちょっと訳有りでな。すまなかった」
そういう俺の頭をくしゃくしゃとかき回すと、あいつは俺の隣の席に座った。
新幹線は、凄い速さで進んでいく――




地元の駅につき、その場で解散となった。
俺は市電に乗って家まで帰ろうとする。一緒の駅へ向かう人はいないようだったので、一人で電車に乗ろうとすると、あの人が入ってきた。
「・・・・・あれ、俺と同じ方向だっけ?」
俺があの人に尋ねると、あの人は
「違うけど、君と話がしたかったから」
とあの人は答え、俺の隣に座った。電車はがらがらだ。
電車は新幹線と違って、ゆっくりと走り出した。
それと同時に、あの人が口を開く。
「・・・・・君、何か僕に隠しているよね?」
「・・・・・」
俺は黙りっぱなしだ。
そんな俺にお構いなしの様子で、あの人は続ける。
「おかしいと思ったんだ。秋葉原の時はうまく先生方を出し抜いたのに、肝試しの時は先生達が見張っている。まるで、僕たちの動きを知っているかのようにね」
あの人は眼鏡を掛け直しながら、続ける。
「そして、帰りの伝言ゲームの時は、完全に内容がバレていた。動きをトレースされているようだった。それが、何故だか分かるかい?」
自分の顔がうつむいていくのが分かる。
何も答えない俺を見かねたあの人は、自分で答えを言った。
「君にはその理由が分かったはずだ。」
と。その通りだ。先生達が最後の計画を知っていた理由を、俺は知っている。
「先生達に計画をバラした犯人がいるはずなんだ」
あの人は続ける。
「この旅行内のでいろいろなことをした。僕は、その計画を外部には一切漏らしていないつもりだった。だけど、その計画をあらかじめ把握していた人物が、僕以外にもう一人いたんだ。それが、君だよ」
あの人はリュックから『裏・修学旅行のしおり』を取り出した。今となっては隠す必要もない。
「君は、計画を先生方にバラしたんだ。犯人は君だね」
「・・・・・・その通りだよ」
俺は、初めて口を開いた。
「正確に言えば、故意ではなかったのだろうから、バラしてしまった、という方が正しいかな」
再び黙った俺にあの人は続ける。
「君は、一日目の夜、肝試しが始まる前に、先生に『裏・修学旅行のしおり』を見られてしまった。全員が寝ている間に先生方は荷物検査をしたんだ。修学旅行の定番ともいえるね。みんな疲れ切って寝ていたから、それも可能だった。」
一日目の就寝時間は10時。一日目はなかなかハードで、俺の部屋の友達は、はしゃぎながら11時には全員寝ていた。勿論俺も。
「そして、君の荷物の中から『裏・修学旅行のしおり』を見つけた先生は、君を夜中に起こし、廊下へ呼び出すと、それについて問いつめた」
あの人は『裏・修学旅行のしおり』をぱらぱらとめくる。
「この中には計画の全てが書かれている。だけど、先生達はその時点で、本当にそれを実行するのかどうか、半信半疑だった。そこで、それに書いてある一番近い計画、『肝試し』の時に、実際にそれを実行するのか、簡単な見張りをした」
それで、先生達が出歩いていた、というわけだ。
「そこで僕が仕掛けた、血を流す掛け軸を見つけた班が先生方に見つかった。そこで先生方は確信したんだ。『あの裏しおりは本物だ』ってね」
あの人は『裏・修学旅行のしおり』の大伝言ゲームのページを開いた。
「そして、『裏・修学旅行のしおり』のしおりに書いてあった大伝言ゲームの時に僕たちを捕まえようとしたんだ。大伝言ゲームは他のゲーム以上に捕まえやすい。なんたって、第三走者の待機場所で見張りをしていればいいんだから」
確かにそうだ。アンカーの待機場所、第7車両を見張っていれば伝言のシーンを見つけることができる。
「警察は犯行を計画した段階で人を捕まえることはできない。犯行を犯した後に捕まえようとすると逮捕状が必要になって、すぐには捕まえられない。でも、一番手っ取り早く捕まえる方法がある。それは――」
言葉を切るあの人。
「現行犯逮捕。犯行を犯している最中に捕まえることだよ」
「・・・・・いつ、それに気づいたの?」
俺は、あの人の尋ねた。
「肝試しの夜、君の所に行った時に不審には思ったんだ。『裏・修学旅行のしおり』がバッグの外に出ていた。隠している必要があるものをそんな簡単に放置するとは思えない。」
そういえば、『裏・修学旅行のしおり』が先生に見つかって、その後に『裏・しおり』をバッグにしまうのを忘れていた。俺もパニック状態だった。
「そして、二つ目は、君がゲームの"成功"を目指していたところかな。"勝利"ではなく。君は、自分が計画を台無しにすることを恐れた。自分のやったことに責任を感じ、"失敗"だけは避けたかったんだ。だから君は違うクラスだったC組のアンカーの子に"単語"を教え、僕のところまで持ってこさせた。」
彼女にメモを渡したのには、以前、仲良くしていた、という理由もあったけれど、あの人が言うとが第一だった。
――しばらくの沈黙。
それを破ったのは、あの人だった。
「まぁ、僕たちのことは結局見つからなかったわけだし、スリリングな旅になった。君のやったことは事故だったながらも、不都合だとは思わなかったよ」
俺は、
「ごめん、本当に。ごめん」
と謝った。旅行をあの人は誰よりも楽しみにしていた。それを台無しにしてしまいそうになった。
しかし、あの人は笑って
「いやいや、いいんだよ。PCのゲームでもイレギュラーがあった方が面白いだろ?」
と許してくれた。俺は本当に良い友達を持った、と思い心の底からほっとした。
なんだか最近、友達に助けられてばかりだ――


こうして、中学校最大の行事、修学旅行は本当の意味で終わりを迎えた。
今回の旅行は、最後の"単語"ではないが、シアワセな旅だった。
少し、スリルがありすぎたような気もしたけれど――




―― Fin...――